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保育のヒント ~科学する心を育む~
地域や季節ならではの自然環境に関わる子どもたちの感性や探究心に感動することがあると思います。今回は、偶然池に張っている氷を見つけた子どもたちが、「氷が溶けないようにする」「自分たちで氷を作る」ことに意欲をもって取り組み、目的を実現した実践をご紹介します。友達と考え合いワクワク感をもちながら、失敗しても諦めない姿に見られる「科学する心」の育ちを、身の回りの人が様々な形で支えていることも読み取れます。
前年度から引き継いだメダカに加えて職員が新たにメダカを3匹持ってきた。子どもたちは喜び、その日から「自分たちで世話をしたい」と、メダカの飼育が始まった。子どもたちは、外遊びが大好きで、どんなに寒くても毎日戸外に出て、友達とサッカーや鬼ごっこ等を楽しんでいた。一人の子どもが園庭にあるメダカの池に氷が張っていることに気づいた。
氷を見つけて大興奮の子どもたち。みんなで氷を手に取り、観察が始まった。
保育者は、片付けて朝のお集まりをする予定だったが、変更して、そのまま様子をみることにした。
看護師の先生は、子どもの気持ちを受け止めて、怪我の時にしか使えない等は伝えずに保冷剤を渡した。保冷剤を出してもらうと、Aさんは嬉しそうに持って園庭に出てきて、水を保冷剤に替えて冷やすが、全部溶けてしまった。
その後の朝のお集まりの時に、当番が新聞の天気予報を見ながら、「今日の熊本の温度は0度から13度に上がります」などと熊本の天気を読み上げた。子どもたちが今朝、氷を見つけたことから、興味を捉えた保育者は、温度について「気温が0度より低いと氷点下ということや0度より低いと氷に変化すること」などの話をした。朝のお集まりが終わると、子どもたちが早速、新聞紙を広げ見始めた。
水曜日、ワクワクしながら登園したAさん、Bさん。氷を探し回ったが見つけられず、残念そうな表情をしている。氷を見たかった子どもたちは、自分たちで氷を作れないかと考え始める。「じゃあ、水を入れるのを探そうよ」と、保育室の中で水を入れる容器を探すが見当たらず、園庭にあるのを思い出したようで外に探しに行き、園庭の砂場のままごとの容器を抱えて戻ってきた。水を入れた小さなバケツを置いてから朝から帰る時間まで、氷ができていないかと、何度も何度も水の様子を確認しに行く姿が見られる。
次の日、氷ができていると喜んで登園してすぐに氷を確認しにいくが、氷ができておらず、がっかりしながらみんなにその事を伝えていた。
保育者は、氷を作る過程で温度のことしか話さなかったので、氷ができた時とできなかった時とで何が違うか、どこが違うかを考え、屋根のあるなしに気づいたことに驚いた。子どもが考えたことを認める言葉かけをした。
どうしても氷を作ってみたいAさんがもう一度やってみると言い出した。
卵のパックに水を入れたものの、蓋が閉まらないことに気づく。子どもたちは自分たちで、輪ゴムで止めることを思いついた。どうしたらいいかを考えて、一人では難しいことも、友達と協力して、水をこぼしながらも蓋をすることができていた。
自分のバケツに水を入れて準備ができ、それぞれにどこに置くかを考えている。
みんなどこが一番良いか考えて、自分なりの答えを見つけていた。 友達の考えも聞き、それを踏まえて自分の場所を考えている姿がみられた。前回は失敗したから、今回は成功させたいという思いが伝わってきた。
今回も水を置いていることを、他のクラスの先生や早番・遅番の当番の先生にも伝えておく。
保育者もどこが氷になるのか子どもたちと一緒にワクワクしてきた。思い思いの場所に水をいれた容器を置き、また明日の朝に氷ができている事を楽しみにしながら降園する。
子どもたちは朝の支度もそこそこに園庭に出て、自分の置いている場所に急いで駆けつけ、氷ができているか確認をしている。この時の子どもたちの勢いと、目の輝きから本当に楽しみにしていたことが伝わってきた。保育者は一緒に行かず、子どもたちが発見した言葉を待つことにした。「みんな一目散に自分の置いた場所に行っているな。氷はできているかな?」と、保育者もワクワクしながら子どもたちの反応を待った。
保育者も興奮気味に答えた。Bさんの満足そうな、得意そうな表情が、気持ちをすごく表現していた。氷ができて嬉しい満足感や達成感などを感じている表情を見て、保育者も一緒の感情を感じることができた。そして、周りにいた氷作りに関心がなかったクラスのみんなも笑顔になっていた。
いつもの園庭で偶然見つけた小さな氷に、子どもたちはすごく関心をもち、目をキラキラと輝かせ、身近な事象に積極的に関わり、好奇心や探究心へと繋がっていった。 氷に触れることで、興味が広がり、自分で氷が作りたいと意欲とワクワク感を見せていた。
子どもの興味・関心が引き出す学びの芽を大切にできる保育者の関わりが、とても重要な環境であることを深く実感した。また自分でやってみようとする姿を認めることで、子どもが「これでいいんだ」「失敗してもいいんだ」「自分でいいんだ」と自信をもつことができる保育がこれからも重要だと考えた。