保育のヒント~「科学する心」を育てる~

保育者の振り返りと子どもの気づき/加古川市立加古川幼稚園(兵庫県)

散歩先や園庭で出合った身近な生き物。それらを見たり触れたりすることで、子どもたちのキラキラした思いが溢れだし、好奇心が芽生える。そのような経験は、多くの園であることと思います。

その芽生えた好奇心が、子どもたちの中でもっと知りたい思いへと繋がり、気づきや発見を通して探究していくエピソードをご紹介します。

虫マップを使って考えてみよう/5歳児

園庭で虫探しをする子どもたちが集うコーナーができた頃より、その中で幼虫を育てたり、見つけた虫を図鑑で調べたりして過ごすうようになってきた。そのコーナーは、「虫研究所」と名前がつき、仲間の人数も増えて、虫マップ作りも始まった。

「天気で虫の様子が違うね!」

傘をさしながら園庭で虫を探す子どもたちの様子
虫はやっぱり少ないね

雨の日、虫を探す中でナメクジを見つけた。理由を推測して、「いつもはプランターの下にいるのに出てきている」「晴れの日とは違うね」「濡れるのが好き」「羽根が無いし、跳ばないから平気なんだと思う」「すべすべしたものは雨が好き。カエルもそう」「乾くとだめ」など言い合う。他の虫は雨宿りをしているのではないかと探すが、簡単には見つけられなかった。

保育者の読み取り

今までの経験から、天気によって見つけられる虫の違いに気づいているのだろう。また、友達と話すことで、その理由を推理したり、考えを出し合ったりする面白さも感じているのだろう。

遊びの充実につながる科学する心や学び、経験等

推理・考えの出し合い

保育者の願い

それぞれの思いを出し合う楽しさや相手の考えを受け入れたり、疑問に思ったりする経験を重ねてほしい。

保育者の援助

考えを出す姿を認め、必要に応じて橋渡ししたり、補足したりする。

「雨の日の虫マップも作ろう」

虫マップの写真
雨の日マップを作ろう

後日の雨の日に「きっとナメクジがいるはず」「他の虫はいないはず」と予想を立てて探した。的中すると「やっぱり」と言い「研究を描いておこう」と言って雨の日の虫マップを作りだした。

他、曇りの日はダンゴムシがよく動くことやアゲハチョウがあまり来ないことにも気づく。
「ダンゴムシは葉っぱや石の下が涼しくて好きだ」
「曇りの日は雲が葉っぱの代わりになっているんだ」
「チョウは途中で雨が降ると困るんだよ」
などと考えを言い、本当かどうか図鑑や絵本で調べ、確認する姿も見られるようになった。

保育者の読み取り

以前の虫マップの発表会での自信から、雨の日の虫マップ作りにつながったようだ。また、虫マップ作りのために虫をよく観察したり、いる場所を一生懸命探したりする経験を重ねたことで、いろいろな事に気づくようになった。気づくだけでは納得せず、図鑑や絵本等を使って確かめるようになったことにも成長を感じる。

遊びの充実につながる科学する心や学び、経験等

予想・応用・まとめる・比較・確認

保育者の願い

気付いたことを確かめたり、友達と納得し合ったりする経験を重ねてほしい。

保育者の援助

自分たちの考えが合っているのか確かめようとする姿を認め、次の遊びにつなげていく。

「他にもこんな事がわかったよ!」

ミカンの木を見ている子どもたちの様子
アゲハチョウ、来るかな?

「アゲハチョウはお弁当の時間に必ず来ているね」「僕も知っているよ」「僕も!」「お弁当を早く食べてアゲハチョウが本当に来るか調べたいな」など、虫マップを使って話し合う中で、仲間同士、同じことに気づいていることや目的をもっていることを確認した。

  • アゲハチョウは待っていたら同じ木に帰ってくる。
  • その同じ木はミカンの木だということが分かった。
  • アゲハチョウは弁当の時間に必ずミカンの木に来ている。
  • →アゲハチョウはいつも同じ時間にミカンの木に卵を産みに来ているのかも?

気づきを活用しアゲハチョウが必ず来る時間に見に行きたいと考えた子どもたちは、時間のもちかたを保育者や友達に相談した。

保育者の読み取り

友達と話し合う機会をもったことで、互いに同じ事に気づいていたり、確かめてみたいという目的をもっていたりすることが確認できたのだろう。また、本当にアゲハチョウが同じ時間にミカンの木に来ているのかを確かめるために保育者に弁当の時間を早くしてほしいと相談する等自分たちで疑問を解決しようとしている。

遊びの充実につながる科学する心や学び、経験等

目的・予測・相談・疑問と解決

保育者の願い

気づいたことが本当に合っているのか実体験で確かめ、知識を自分のものにしてほしい。

環境構成

子どもの思いを受け入れ、弁当の時間を早くもつなど確かめられるだけの十分な時間や場を設ける。

考察

科学する心の育ちにつながる見方・考え方について
  • 「虫研究所」という同じ目的をもつ子どもが集まる場所ができたことでやりとりが生まれ、気づきを振り返り何度も味わったり、友達と学びを共有したりすることができた。
  • 虫マップを用いて、学びを可視化したことで、「場所」「種類」「時間」「状況」など視点をもって考えることや、友達と推理したり、確信したりする楽しさを味わうことにつながった。
振り返りや共通理解につながった保育者の援助と環境構成
  • 保育者の援助:必要な場面で遊びの振り返りを行い、子ども同士で考えたり、目的に向かって遊び出したりできるように支える。
  • 環境構成:遊びの経過が見える写真やホワイトボードを用意しておき、子どもが思いや考えを言葉だけでなく、いろいろな方法で友達に伝えられるようにする。

保育カンファレンスより

保育者のイラスト
課題

学びの振り返り、可視化は重要だと分かったけど、それぞれ子どもの発達や、興味・関心に沿ったものとなると、難しいね。また可視化も幼児がほしいと思う情報でないと活用にはつながらないね。方法だけでなく、タイミング、掲示場所、保管方法など課題が多いね。

成果

子どもの思いを探りながら、ノートから虫マップ作りへの変更等その時に必要な環境構成の工夫を重ねていったことが遊びの深まりにつながったね。

課題

子どもの興味がどの方向に向いているのか、保育者のねらいと合っているのかを常に意識しておくことが必要だね。子どもの思いとねらいのズレがあると遊びが続かなかったり、保育の押しつけになったりしてしまいがちだね。遊びの見極めは難しいけど、子どもの思いを探りながら、教師の援助をタイミングよく行っていきたいね。

保育者のイラスト
保育者のイラスト
成果

5歳児は虫マップができたことを知らせに来たよ。自分たちの中でも良いものができて、満足したのだろうな。地図を指しながら園庭の虫がどこにいるのか具体的に説明していて伝える力が育ってきたと感じたよ。

課題

虫マップが園全体で見える場所に置いてもらえたら嬉しいな。

成果

環境構成を工夫してし続けていくことが大切だな。
地図ができたことでさらなる意欲がうまれたね。
園庭にはいろいろな虫がいることがこの遊びから改めて分かったよ。

保育者のイラスト
保育者のイラスト
成果

カンファレンスをするとクラスの子どもの知らない姿が見えてくるな。先生方と話し合うことで、環境構成のアイデアが膨らんできたよ。まずは幼児理解を更に深めることと、虫マップの置き場を見直すことから始めよう!

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