ソニー幼児教育支援プログラム 幼児教育保育実践サイト
保育のヒント ~科学する心を育む~
子どもたちと、小さな生き物との関わりに焦点を当てて継続して記録を取ることはありますか?
今回は、メダカの飼育の過程で、子どもたちのつぶやきを見逃さずに丁寧に記録を積み重ねている園の事例をご紹介いたします。メダカの卵との出合いの喜び、小さな赤ちゃんメダカにも目があることへの気づきと感動など、子どもたちは「科学する心」につながる豊かな体験をしています。保育者は、事例を丁寧に振り返り、一人一人に注目して、変容や育ちを読み取っています。
前年度から引き継いだメダカに加えて職員が新たにメダカを3匹持ってきた。子どもたちは喜び、その日から「自分たちで世話をしたい」と、メダカの飼育が始まった。
ある日、Aさんが、いつものようにメダカに餌をあげていた。そして、メダカが水面に浮かぶ餌を食べている様子を見ながら「あれ?お腹になんか付いてる」と気づき、「先生、見て!」と伝えてきた。保育者は何であるか分かっていたが、「何やろ。誰か分かるお友達いるかなぁ」と受け止めて話した。
するとAさんはBさんを呼びに行く。Bさんは、祖父母がメダカを飼育していて、メダカのことをよく知っている。Bさんは見てすぐに「あ、卵や!」と話し、「メダカさんのお腹に卵付いてるでー!」と他の友達にも知らせ、「ほら、これが卵やで」と教えてくれた。
Bさんの声につられて、学級の子どもたちがメダカの様子を見に来た。見えにくい姿もあったので、保育者がそのメダカを他の容器に移し、みんなで観察してみた。子どもたちはメダカをじっくりと見ながら、「ほんまや。1個付いてる」「透明や」「小っさ!」と気づいたことを口に出している。しかし、そこからなかなか発展せず、しばらく見ると興味がなくなり、少しずつその場から離れて遊び始める子どもたち。結局、その場に残ったのは発見したAさんとBさん、いつもよく世話をしているCさんの3人となった。
毎日の日課のようにメダカの水槽チェックをしていたBさんとCさん。メダカの水槽に網を入れ、必死にメダカを捕まえようとしている。保育者が「どうしたの?」と聞くと、Bさんが「メダカさん、また卵付けてるねんけどな、ずっと一緒にしていたらメダカさんが卵を食べちゃうんやっておじいちゃんが言ってた。前の卵も食べられちゃったねん」と言う(前に生まれた卵はどこにあるか分からなくなってしまっていた)。 その話を聞いたCさんも一緒になり、「そうなん?! じゃあこのままにしてたらあかん!」「前のやつ、いつの間にか食べられてたんや!」という話になり、慌ててメダカの卵を取り出そうとしていたようだ。保育者も手伝って卵を他の容器に移し変える。BさんとCさんは移し変えた卵を見ながら、「これでいいわ」「あー良かった」と満足気に話している。
次の日、DさんとEさんが「今日も卵付いてるー!」と発見。そこにAさんとCさんが来て、「ほんまや!」「いっぱい!!」と喜ぶ。すぐに「Bちゃーん!!」と呼んで観察を始めた。この卵も移し変え、昨日生まれた卵と一緒に観察している。安心したBさんとCさんは、卵を見つめながら「いつ産まれるんやろ」「何を食べるんやろ」と話している。その会話にDさんとEさんも加わり、メダカのことをよく知っているBさんを中心に、メダカの様子に興味をもつ子どもが少しずつ増えてきた。とても小さな卵を一生懸命に見ながら、「1、2、3、4…」と数えているDさん。この日から卵の成長も観察し始めた。
ある日AさんとCさんが観察していると、小さなメダカの赤ちゃんが産まれていた。ものすごく小さな赤ちゃんのため子どもたちには見えにくく、保育者が「見て、メダカさんの赤ちゃん産まれてるで!」と伝えた。
途端に2人の目が輝き、「えー!!」「どこ?!」と顔をカップにくっ付けて探している。「見えへん!」「分からん!」と大騒ぎしていたが、だんだん集中し始め、2人とも静かになった時、Cさんが「いた!」と話す。Aさんに「ほら、ここ!」と必死に指をさして教え、Aさんが「見えた!」と言うと次は学級の友だちに見せに行き「ほら、赤ちゃん!」と興奮気味に話している。次に職員室へ行って「園長先生見て!」といろいろな人に見せていた。見せながら「すごいやろ?!」と得意気になって、自分たちの発見を話している。
次の日、Cさんは、「ほら先生、見て。めっちゃかわいい。こんなに小さいんやなぁ」と、とつぶやきながらじっと観察している。