保育のヒント~「科学する心」を育てる~

色水~環境の工夫~/幼保連携型認定こども園 愛の園ふちのべこども園(神奈川県)

みなさんの園の子どもたちは、どのような素材や材料で色水遊びを楽しんでいますか?
今回は、コロナ禍での感染予防対策のために、保育環境を変えていかなければいけない状況の中、「ポジティブに捉えることで状況はいつでも好転する」との考えのもと、子どもの視点に立った環境の工夫に積極的に取り組んでいる園の事例をご紹介いたします。新たにできた場で自発的に始まった「色水遊び」では、子どもたちの様々な気づきや疑問が探究へとつながり「科学する心」が育まれています。

色水遊びの発展/4・5歳児

保育所型である私たちのこども園では、一日中子どもたちがいることもあり、保育環境や教材の準備を行う時間を十分に生み出すことは難しい。しかし、その準備の時間も考え方によって、子どもたちと楽しく過ごす保育の時間に変えることができると捉えている。何事もポジティブに捉えることで状況はいつでも好転すると信じ、コロナ禍の中、待ったなしで始まる新年度(2020年度)の期待と不安で胸いっぱいの子どもたちを両手を広げて迎えた。

4月1日

テラスに作った水遊びコーナーの写真登園して来た子どもたちには、不安な姿も見られたが、部屋の隅でのこぎりや電動工具を使って棚を壊し始める一人の保育者に子どもたちは目を奪われ、泣くことを忘れて見入っていた。(密を避ける対策として一つのテーブルに座る人数を減らしテーブルの台数を増やしたため、長い本棚でスペースを取っている場合ではなくなった。)子どもたちが見守る中、棚の半分を解体し、その切れ端を使って、水遊びコーナーとしてテラスに棚を作った。すると子どもたちは、目の前で自分たちの水遊びコーナーが完成していくことに感動し、期待に胸を高鳴らせていた。それまでは遊びのスペースではなかった場所が、魅力的な場所に変わった。テラスを使うことで保育室の密集も緩和された。水道があることに注目し、子どもたちが自由に遊べる場所としての環境となった。最初に子どもたちの遊びをイメージし、計量カップ・小さなすり鉢・大きな箱・雨どいなどを用意した。子どもたちは、身近で慣れ親しんだ廃材などを使って遊び始める姿があった。

4月7日

草を入れたすり鉢
草をハサミで切っている子どもの写真
「小さくできないかな」
草を擦りこぎで潰し、泡がでている写真
「泡が黄色くなった」
すり鉢の中にあった泡がなくなった様子
「泡が消えた?」

新たな場で、石鹸を使っての泡遊び、樋を使っての水遊びなど様々な遊びが始まった。

色水を作ることが楽しくなったBさんとAさん、後から加わったCさんは水遊びの場から少し離れて、泡以外の他の色水ができないか探し始める。

そして、昨年度、袋に水とオシロイバナの花を入れて色水を作った経験から計量カップの中に近くにあった雑草と水を入れて混ぜてみるが、色が出ない。担任が「すり鉢を使ってみたら?」と声をかけると、Bさんは「何それ?」と知らない様子。担任が渡すとAさんが「あぁこれね。潰しているの見たことある。いいかも」と雑草を潰し始めた。

しかし、雑草が大きいため動いてしまって潰れない。「ゴマみたいに小さくできたらいいのに」と言うので担任は雑草を切るためにハサミを提案する。「いいの?」と驚きながら細かく切ってからすり始めるとうまく潰れ始めた。すると、Aさんは先ほどの“泡を使った遊び”が急にリンクしたようで、泡を入れ始める。すると泡で雑草同士がくっ付いてまとまり、「これがめっちゃやりやすい!」と友達にも教え、みんなで同じ方法で擦り始める。

徐々に泡に雑草の色が着き始めた。雑草の量を増やしていくと色が濃くなっていく。Bさんが「なんか泡の色が草の色じゃなくて茶色なんだけど?」と、元の草の色と異なることに気づき、Aさんも「面白いね。納豆みたい」と答える。すると昼食の時間が来てしまい、「またあとでやろう!」と3人は色のついた泡が入ったすり鉢を棚に保管して食事にいった。

食事を終えて戻ってきた3人は驚く。すり鉢の泡がなくなり散り散りになった雑草があるだけになっていた。Aさんが「誰かに捨てられたのかな?」と言うと「泡だから無くなっちゃったんじゃない?」とDさんが気づき、「確かにじゃあ泡でやったら続きにできないじゃん。」と3人は気づき、Aさんが「水でもいいかな?」と少量の水で試すとさっきよりも元の草に近い色が出た。「水の方がきれいかも!」と気づき、水を使ったり、泡を使ったり、気分によって変える姿が見られた。

4月16日

計量カップに水と少しの草花が入っている写真と、すり鉢に草花と少しの水を入れて潰している写真
「全然色が違う」

色水遊びは、子どもたちが夢中になっている姿を見た他のクラスにも広がっていった。

もも組の子どもたちは毎日のように雑草を取ってはすり潰し、時にはそこに綿を混ぜたり、水で作った色水に少しずつ泡を混ぜたり様々な探究を重ねていた。この日の午後、Bさんが「すごいの見つけた!」と嬉しそうに園庭から持ってきたモミジの葉を擦り始める。すると、とてもきれいなモミジの色が出た。目を輝かせ、「すごいでしょ?家で遊んでいる時に同じ葉っぱ潰したら色が出たから、今もやってみたんだ!」と興奮気味に保育者や友達に見せた。

そこから子どもたちは新しい色を見つけることに対する探究も進んでいった。桜の花びらや食事で残った果物まで擦り潰していた。

5月26日

きれいな赤紫色になったすり鉢の中身
「ほらきれいでしょ?」

この頃になると葉をすり潰す動作も洗練され、最小限の水でペースト状になるまですり潰している。また雑草の中に潰しやすく色が濃く出やすいものがあることも分かってきて、子ども同士で「この色が作りたいなら、こっちの葉っぱを持ってきなよ。この棒(茎)はない方がいいから」と教え合っている。中くらいの計量カップに水を入れ、そこに擦りこぎの先についたペースト状になった草を少しずつ混ぜていくと、だんだん色が濃くなっていく。

5歳児のEさんは「あぁ、水を入れすぎたから薄いな。もっと草を増やさなきゃ」と水が多いと濃度が薄まることを分かっているようだ。一方で4歳児のFさんは大きな桶いっぱいに水を入れているためになかなか水に色が付かない。それを見ていたEさんに「水が多いよ」と言われてもFさんは理解や思いが違うのかそのまま続けていた。

6月2日

濃い色水の入った計量カップ、草花をすりつぶして濃い色がでているすり鉢、たくさんの水が入った計量カップの写真
「同じ色でも濃さが違う」

公園や園庭に出た時に潰したら面白そうなものを探すことが子どもたちの日課となっているが、最近は公園に落ちている桜の実を潰して色を出すことに夢中になっていた。いつも通りその実を潰しているとAさんが、同じ木の実を潰していても色が出ないことがあると気づいた。「あれ?」と言いながら木の実を見たり潰したりを繰り返す。すると、一緒に潰していたBさんが「え、赤いのは色があんまりでないよ」と当り前のように言った。「え?」とAさんも実を見比べながら何度もすり潰し、「本当だ!“ちゃんと黒い実”(赤色が残っていない)の方が色が出る!」と同じように見えるものでも、全く色の濃淡が違うことに気づいた。

その後、石鹸のクリームに色水で色を付ける遊びや、画用紙で色が出ることも発見し、多くの子どもが画用紙を使った色水作りをするようになった。また、これまでのすり鉢による作り方だけではなく、桶に細かく切った画用紙を入れた後ひたすら混ぜる作り方やビニール袋に入れて揉む方法など本当に多くの作り方が生まれていった。またその中で画用紙を混ぜて赤と白でピンクを作るように、色を混ぜて新しい色を作る調色遊びが活発になった

考察

自然物や画用紙を使った色水作りが長期間継続した要因として、「“色水を作りたい”という最初の思いが、“絵の具を水に溶かす”という簡単な方法で満たされなかったこと」がかえって、色水を作るために様々な試行錯誤を伴ったプロセスに繋がった。また、そこに探究心が生まれ、自分の手で様々なものから色を作りだす喜びと楽しさを知ったことが考えられる。さらに、素材から作る色水は少量で変化する絵の具と違って、少しずつ変化を起こすため目標とする色ができるまでの微妙な違いを感じやすく、その変化を喜び楽しむ時間があった。その時間は、他の子どもたちの色水の変化にも気づくための時間にもなり、そこにいる友達とも変化や気づきを共感しやすくなっていた。この色水を作るためには一見単純に思われる動作を一定時間繰り返す必要があり、保育者は、その時間や手間が子どもの継続的かつ発展的な遊びにマイナスに働くと思ったのだが、実はその時間に会話をすることが大きな楽しみとなっていた。子どもたちにとってはこの色水作りが会話を楽しむための集いの場になっていたことも大きな要因であった。

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