ソニー幼児教育支援プログラム 幼児教育保育実践サイト
保育のヒント ~科学する心を育む~
身近な学校とどのような連携や接続の工夫をされていますか?
今回は、子どもたちが、アサガオの種との関わり、疑問や不思議と出合い興味を深めていく過程で、近隣の小学校(2年生)とのつながりが生まれた事例をご紹介いたします。
保育者が、丁寧に子どもの試しを見守り、答えを急がず考えに共感していく姿から、「科学する心」を育てるために大切なことが見えてきます。
4歳児の子どもたちは、7月頃から、自分たちが植えたアサガオの花での色水遊びを楽しんだ。その後も、アサガオの花との関わりを続け、9月の種取りの時期には、種に興味をもつようになった。ある日、種の形をした白い塊を見つけた子どもたちが、中を開けると『葉っぱの赤ちゃん』の様なものが入っていて、「これは何か?」と疑問をもった。保育者は、答えを先回りして教えないよう、子どもの様子を見守り、その思いに共感するように援助していった。
そして、「『葉っぱの赤ちゃん』は固まるのでは?」ということを考えた子どもたちをよそめに、Aさんは「黒い種」の中も見てみようと、一人で黙々と黒い種を割っていた。「白い種」は柔らかかったので、すぐに中身を取り出すことができたが、「黒い種」は硬くてなかなか割れない。
2人の保育者も、子どもの発言に思わず笑い合う。Bさんの「ハナクソ」発言に周りの子どもたちも「ハナクソ?」と笑い始めた。保育者が笑い出す様子を見て、子どもたちは嬉しくなった様で、「ハナクソ!ハナクソ!」と、連呼し始めた。保育者は笑顔でその様子を見ていた。
その間も、アサガオの鉢の周りでは種の中を割ってみる遊びが続いていた。その中の子どもが「種の中に白い小さな粒が入っている」と見つける。見ると、種によっては、緑色の「葉っぱの赤ちゃん」でも、「ハナクソ」でもない、白く硬い小さな粒が入っていることも分かった。
A児が物と関わり続け、ついに「黒い種の中身」を知った。どんなに硬くてもあきらめなかった。「葉っぱの赤ちゃん」が入っていた白い種と黒い種は硬さが違うことや、黒い種の中身は「茶色いボロボロ」であることを試し、よく観察して発見した。その姿に「科学する心」の深まりを感じた。また、発見した事柄をつなげて考えながら、「葉っぱの赤ちゃんは固まる」という結論を導き出すことができた。
「葉っぱの赤ちゃん」を発見し、黒い種の中身も何かを突き止めようとするA児の姿は、他の子どもたちにも大きな影響を与えている。「茶色いボロボロ」は「ハナクソ」として、より子どもたちの興味を引くこととなった。保育者は、子どもの発想の豊かさに笑いが起こると共に、この関心の深まりが次につながるように思え、嬉しくなった。
この時、子どもを見守っていた保育者は2人いたが、A児の様子を初めから見守っていた保育者Aが保育者BにA児の様子を伝えることで、保育者同士が子どもたちの様子を共有することができた。僅かなやりとりではあるが、「なぜ今、この子どもは、このような状態なのか」を保育者同士が情報共有し、それぞれがAさんの「気づき」を認め、「科学する心」の育ちを支援していると考える。
10月、アサガオについて、不思議に思うこと疑問に思うことをクラスのみんなで考え合った。その過程で、「学校の先生なら、分かるのではないか?」という声が子どもたちから出た(「学校の先生」とは、日頃から、関わりのある近隣の小学校の先生のこと)。そこで、分からないことを、質問事項としてまとめ、お手紙を添えて、小学校に届けた。
12月、心待ちにしていた小学校からの返事が届いた。担当教諭からは、小学2年生が返事の作成を担当したことに加え、普段は授業や校外学習で「教えてもらう」場面が多い2年生にとって、「保育園からの質問に答える」という活動は初めてであり、とても貴重な経験となったことが添えられていた。
園児からの手紙を読み、最初は「難しいな」と感じていた2年生が、自ら図書室からアサガオに関する本を借りてきたり、子どもたちの発案でグループごとに質問を割り振って調べ学習をしていったりした様子も報告されていた。
子どもたちのふとした疑問がこのような小学生の深い学びへ拡がっていったことに驚くと同時に、園児の問いに真摯に向き合っていただいた小学校の皆様のあたたかな思いを受け取ることができた。
小学校からの手紙の返事に、大喜びの子どもたち……。
Cさん:「『ハナクソ』の秘密が分かったね。ヒヒヒ」
Dさん:「返事がきて、嬉しいね」
小学校からの返事は白板に貼り、室内に掲示して保護者にも見てもらえるようにした。子どもたちは、「時期外れに育つか知りたい」「種から芽が出るところが見たい」「もう一度種の中(ハナクソ)を確かめたい」など、再びアサガオのへの興味を深めていった。その興味は、5歳児になっても続いている。