保育のヒント~「科学する心」を育てる~

好きな木への探究と表現/学校法人水谷学園 認定こども園北陵幼稚園・北陵保育園(島根県)

草花や木など身近な植物と関わる子どもたちの姿に注目したことはありますか?

今回は、園庭の木に思いを寄せ関わる子どもたちが、匂い・大きさ・高さ・色・木と関わりのある生き物へと興味を深めていく過程で、製作などの表現活動につながった事例をご紹介します。友達と木への思いや情報を伝え合う姿、好きな木を言葉で表現した俳句にも、子どもたちの「科学する心」が表れています。

身近な素材で「木」を作る/5歳児

5月頃から、子どもたちは、園内にあるいろいろな木の名前を調べたり、好きな木に抱き着いたりなど興味をもって関わっていた。コロナ禍による自粛登園期間中は、数人の登園であったが、5月中旬全員が揃うと、早速に遊びの紹介や情報を伝え合うなどの姿があり、木への興味も友達に広がっていった。そして次第に、興味・関心を深めていった。木の太さや高さを調べる子どもや、身近な素材で木を作り始める子どもたちも出てきた。そこで、子どもたちの興味を大切にしようと、姉妹校の高校のキャンパスに出かけ、様々な木と関わることができる機会をつくった。子どもたちは、園にある木との大きさの違いを感じたり、新たな木と出合ったりなど、木のことをもっと知りたいと探究心を膨らませ、好きな木を作りたいとの思いが強くなった。戻ってくると、木の枝を工夫して作り始める子ども、自分の木の色を作り出す子どもなど、より生き生きと活動を始めた。

モミノキを作るAさん

新聞紙とダンボールでモミノキを作る子どもの様子

「先生……僕、モミノキにする!」と言う。保育者が理由を聞いてみると、「あのね、モミノキはサンタクロースが好きでしょ……だからモミノキにするわ」と言う。そして、園の横の余り目立たない場所にあるモミノキを見ながら「先生、大変、見つけた!」と叫び声をあげる。「ほら、実が付いているよ…」と、教えてくれる。探さないとなかなか見えない実を発見したAさんの思いを保育者は受け止めた。

Aさんは、紐の太さに合わせて段ボールを丸めて木の大きさを決めている。満足した表情で、「大変でした。でも頑張りました…」と言い、さらに、高くするという目的で段ボールを継ぎ足していった。新聞紙に色を塗って木の色にする。保育者があらかじめ塗っておいた新聞もあったが、「僕は自分で塗ったのを使います」と、次々と自分の考えを堂々と表現していく。独り言をつぶやきながら真剣に取り組み、納得がいくまでやり通していた。

しばらくするとAさんは、「しかけ」を作ると言うので、保育者がよく話を聞いてみると、その木にまつわる様々な工夫を教えてくれた。「自分を作ってモミノキに登らせること」「木の実の名前のクイズを調べること」「樹液が木の実から出るようにすること」「木にいる虫を木の中に忍ばせること」など、たくさんの「しかけ」を組み込み試行錯誤しながら作っていった。「しかけ」という言葉がそれぞれの子どもの心に響き、流行するようになり、子どもたちの活動は発展していった。

「木の蓋を開けるとイラガがいるのでカマキリを木につけるとイラガを食べるからカマキリも作る」と言っている。Aさんが、自分で調べたことをすぐに形にしていく力や根気よく続ける力とその行動から友達が学んでいる姿が多くみられた。

松の木を作るBさん・Cさん・Dさん

粘土とペットボトルで松の木を作る子どもたちの様子

Bさん・Cさん・Dさんの3人は、相談してどっしりとした松の木を作ることになった。 出雲は松の木を神様の木として大切にしている。「出雲大社の松の木と経島のウミネコを関わらせて、ウミネコを吊るし木の上を飛ぶようにしたい」と話し合い、3人でウミネコを作り始めた。粘土とペットボトルを組み合わせて工夫して作っていた。Bさんは大社から通園しているからかよりその思いが強い。CさんはそのBさんの話を受け入れ積極的に活動をしていく。そして、揺らすとウミネコが飛んでいるしかけを作った。

  1. Bさん:「あのね……松の木は大社にいっぱいあって風をよけるから強いよ……」
  2. Cさん:「うちにも松の木あるよ。でも大社のとは違う」

などと話しながら、どこに魅力を感じたのかこの3人は松の木つながりで絶対の信頼関係ができていった。そして、自然に俳句での表現も生まれた。

  1. Dさん:「松の木あるよ……大社の松は分からん……」
  2. Bさん:「チクチクと まつはいたいが とりはすき」
  3. Cさん:「ゴツゴツと ふといみきだぞ よこづなだ」
  4. Dさん:「チクチクと いたいいたいと きのちゅうしゃ」 思わずみんな笑顔になる。

サクラの木を作るEさん

人形を作る子どもたちの様子

6月10日、桜の葉の匂いが好きというEさんは、大好きな桜の木の上でブランコに乗っている自分の人形を作る。保育者が、「気持ちよさそうだね…」と思いに寄り添い声をかけると「そうだよ、サクラの葉っぱの近くだとずっといい匂いがするよ」と話す。

本当にサクラの葉が好きなことがわかる。そして、「ナンバーワン 匂いが変わる サクラの葉」と、Eさんは言葉を並べた。この感覚・感性に響いた俳句での表現は、他の子どもたちにもすぐに広がり、木を作りながら言葉遊びも楽しむようになった。

マテバシイを作るFさんとGさん

手をつないでいる子どもたちの様子

FさんとGさんは隣同士で「マテバシイ」の木をそれぞれ作っていた。

Fさんは自粛期間も園に通う子どもで、水を流して遊んでいた時その先に、マテバシイの木がありその時からずっとマテバシイに思いを寄せていた。友達がいろいろな木に興味をもっても、頑としてマテバシイから離れなかった。

Gさんは自粛期間を終えて登園してきた時に、図鑑を見て実のなる木を探していた。そして、マテバシイを見つけて興味をもった。製作時は、たまたま隣同士になった2人だったが、Gさんがサルを作って木に付けたのを見たFさんが、「手をつなごう…」と誘いをかけた。「いいよ」とすんなりと受けていた。

イロハモミジを作るHさん

傘の骨と新聞紙でイロハモミジを作る子どもたちの様子

Hさんは傘の骨を枝にした。「イロハモミジ」に挑戦している。傘の骨を枝に使う工夫をする。一本の骨に新聞紙に色を塗って張り付け枝に見立てる。保育者は、Hさんの面白い発想を受け止めた。

Iさんが、「寝っ転がってモミジを見てごらん…」と、Hさんに言う。Hさんも寝っ転がって上を見る。Iさんが、「夜空のモミジに見えるよ…」と言うとHさんが、「あっ!見える!モミジが星に見えるね…」と答え、2人で会話を楽しんでいる(モミジの葉が星に見えた)。この2人のやりとりから、Hさんはモミジを作りたいと思い、「夜のイロハモミジ」と言う。保育者が、「モミジ頑張っているね」と話すと「先生、イロハモミジと言って!」と、叱られる。工夫して作った枝である傘を回して友達や保育者に見せてくれる。

振り返って

5歳児の子どもたちの感覚・感性に響く体験がどのように「科学する心」に繋がるのか、今回の実践から感じることができた。子どもたちが何を感じ取って、何をしようとしているか遊びの目当てが明確でこそ心が動くと感じた。やってみたいこと、こんなことに挑戦したいなどに子どもの心が動くが、そのきっかけがなければ心に響かないのではないかと考える。子どもたち一人一人が遊びの目当てをもちそれに向かって自らの個性を精一杯働かせることができる環境こそが、「科学する心」の育ちには大切であると思われる。

保育者は、「木」が日々の遊びの対象としてここまで展開するとは思っていなかった。しかし、「木」と関わり、「調べる」「試す」「挑戦する」「不思議・発見」など子どもの心に響く姿、製作や言葉などの表現にも繋がったのは、子どもたちの感性や感覚を大切にしてきたからと思われる。

俳句での表現にも、子どもの感覚・感性が精いっぱい働いている。H児のように、友達の様子からヒントをもらって自分の表現が素直に表出できたことからも感覚・感性が「科学する心」の育ちに繋がっていることが明確に分かる。

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