白川先生の講義
電気を通すプラスチックの発見とセレンディピティー
2日目午後、塾生全員に向けて、白川先生より「電気を通すプラスチックの発見とセレンディピティー」の講義がありました。導電性プラスチックの説明や発見の経緯、発見のきっかけのもとになった「セレンディピティー」について、写真や図を交えて分かりやすくお話くださいました。また、ノーベル賞の金メダルを会場に持参し、塾生が実際に手にとってじっくり見ることができるという貴重な体験をさせてくださいました。塾生たちはそのメダルを手にしながら、白川先生が話すメダルの裏側に描かれた絵のメッセージを聞くことができ、忘れがたい経験となったのではないでしょうか。
導電性プラスチックについてのお話は電気を通す仕組みなど、小学生には少し難しいところもあったようですが、塾生はメモを取りながら熱心に聞いていました。また、講義の後には、白川先生がご持参くださった導電性高分子を応用したものの実物(電池やコンデンサ)を実際に手にとって見ることができました。その後、引き続いて、「導電性プラスチックづくり」の実習を行いました。
- 科学の芽・茎・花
- 電気を通すプラスチックの研究にいたるまで
- ノーベル賞受賞とメダルの絵の伝えていること
- 科学と技術
- 発見の種とセレンディピティー
- 合成高分子
- 導電性高分子(プラスチック)の応用
- 導電性プラスチックの発見・開発とセレンディピティー
1) 科学の芽・茎・花
「不思議だと思うこと、これが科学の芽です。よく観測して確かめ、よく考えること、これが科学の茎です。そして最後になぞがとける、これが科学の花です。」とおっしゃっているのは、1965年に日本で二番目にノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎先生です。不思議に思うことをよく観測し、考えて確かめることはすぐにできるかもしれません。しかし、その「科学の花」がいつ咲くのかというと、最後になぞが解けるところまで持続するのは大変な努力が必要です。すぐ花が咲くかどうかは分かりません。みなさんがこれから中学校、高校に行って、大学に学んで、社会に出て、研究者になってずっと研究を続けて、それから花を咲かせるかもしれません。よく観察し、よく確かめて、「科学の茎」を育てるということが皆さんにとって一番大切なことではないかと思います。
今日の話で特に皆さんに伝えたい内容は、今すぐその中身が分かることではないかもしれません。そういうことがあったなと、あとあと思い返せるように覚えておいてもらえれば、大変うれしく思います。
2) 電気を通すプラスチックの研究にいたるまで
今日の話の主題は「電気を通すプラスチックの発見」ですが、この電気を通すプラスチックの発見のきっかけのひとつはセレンディピティーです。したがって、今日の話の主題は二つあります。1つ目はセレンディピティー、それから2つ目はなぜ電気を通すのかということです。
私が中学生、高校生くらいのときに、将来やりたかったことが3つありました。ひとつは生物学、植物の品種改良です。今で言うライフサイエンスや、遺伝子組み換えに近いと思います。二番目は電子工学でエレクトロニクスです。そして3番目は化学です。化学にも様々な分野があって、その中の高分子(プラスチックのこと)の合成を大学で勉強し、研究対象としました。1952年、中学校の卒業文集の中で私は、将来の希望として、「高校を卒業後、できることなら大学へ入って、化学や物理の研究をしたい、そして、現在できているプラスチックの研究をして、今までのプラスチックの欠点を取り除いたり、いろいろな新しいプラスチックを作りだしたりしたい。」ということを書き、結局これが実現したのです。
ノーベル化学賞を受賞した野依先生も中学入学の1952年の12歳のときに、お父様の会社でナイロン製品の発表会があって、そこに行き、ナイロンは水と空気と石炭からできている(現在ナイロンは石油から出来ていますが)と聞かされて、化学というのは面白いと思い化学を勉強されたようです。つまり私が興味を持ったポリ塩化ビニールや、野依先生が興味を持ったナイロンというのは、戦争直後何もなかった時代にアメリカから入ってきました。その後日本でも作れるようになり、家庭用品をはじめ様々なところに使われており、当時は最先端の材料だったのです。そのようなところに非常に興味をもちました。結局、これがきっかけとなり大学で化学を4年間学び、大学を卒業したあと、大学院に入って、修士課程2年、博士課程3年、合わせて5年間勉強し続けました。その大部分は、このプラスチック、高分子のいろいろな性質や新しい作り方の勉強でした。ただ大学、大学院の9年間というのは、電気が通るプラスチックの研究をしていたわけではありません。大学院を終え、博士号をとってから助手になって初めて、電気を通るプラスチックの研究の元となるような研究を始めたのです。
3) ノーベル賞受賞とメダルの絵の伝えていること
結局、それから30年近く経った2000年の10月10日に、ノーベル財団より「電気を通すプラスチックの発見は、有機物は電気を通さない絶縁体であるという、常識を覆す画期的で独創的な発見である。」とする授賞の発表があったのです。今日の話の題目は「電気を通すプラスチック」ですが、専門用語では導電性高分子といいます。つまり電気を導く性質のある高分子、いうことです。12月10日に「導電性高分子の発見と開発」として、アメリカの2人の開発者アラン・ヒーガー教授(米カリフォルニア大サンタバーバラ校)、アラン・マグダイアミッド教授(米ペンシルバニア大学)と3人一緒で受賞しました。国王から賞状と赤い箱に入ったメダルを頂きました。
ノーベル賞のメダルにはアルフレッド・ノーベルの生まれた年と亡くなった年がラテン数字で入っています。表側よりむしろ裏側の図柄にとても意味があります。2人の女神が雲の上に立っています。正面を向いている女神は、ラテン語でナトゥーラ、自然の女神です。それから右側の女神は、これもラテン語でスキエンティア、英語でいうとサイエンスです。つまりこの女神は科学の女神です。科学の女神は自然の女神の正体をよく見ようと思い、そっとベールを持ち上げています。つまり皆さんに自然の内側、つまり詳細をよく見なさいと言っています。「科学というのは自然をよくよく見る」という意味がこもったデザインです。スキエンティアというラテン語は「知識」という意味を持っています。したがって、もともとサイエンスというのは知識全般という広い意味を持っているのです。
4) 科学と技術
これは私の個人的な意見ですが、科学の女神はなぜ自然の女神のベールを開けようとしたのか、という理由には、二つあると思います。一つ目は人間が厳しい自然と生きていくために、いろいろな知識を持つ必要があります。人間が生きていくために、どんな植物が食べられるのか、どのようなところに行くと何が食べられるのか、それはどうしてそこにあるのかということ、いろいろなことを知識として、蓄えておくということです。これは「技術」に通じると思います。二番目は自然をよりよく知ろうという知的好奇心、これが「科学」であると思います。ですから科学と技術というのは全く別物だと理解して欲しいのです。
よく科学技術と一言で言ってしまっていますが、「科学」と「技術」には大きな違いがあるのです。世の中で例えば、便利になると思ったものが返って災いになったりする公害ということがあります。それは科学が悪いのではなくて、それを利用するために発達した技術の使い方があまりよくなかったといえるのではないでしょうか。新しい発見や発明が科学でそれ自体はよくも悪くもないのです。人間の知的好奇心を満足させ、心を豊かにします。それに対して、心を豊かにしてくれた新しい発明、発見をさまざまなところに応用して、生活をよりよくするもの、それが技術だということです。健康を守り生活を豊かにしてよりよい社会環境を作るのが技術です。
5) 発見の種とセレンディピティー
もう一度授賞式の話に戻りますが、授賞式の2日前、12月8日に受賞記念の講演会がありました。講演会は3人それぞれがほぼ45分間、受賞対象となった電気が通るプラスチックがいかに発見されたか、という話をしました。そのときに、スウェーデン王立アカデミーのノーベル化学賞選考委員会の委員長をされているノルディエン先生という方から、我々3人は「セレンディップの3人の王子」だと紹介されました。つまり、ノルディエン先生はプラスチックの発見はセレンディピティーによるのだと暗に示唆していたのです。
セレンディピティーについて説明しましょう。この言葉はフォレスト・ウォルポールというイギリスの文筆家によって作られたものです。1754年に自分が体験した不思議な出来事をなんとか言葉を使って友達に手紙で伝えようと思ったのですが、なかなかいい言葉が思い浮かびませんでした。そのとき読んでいたおとぎ話、「セレンディップの3人の王子」という物語から付けた言葉だそうです。辞書には「探し求めていたわけではないが、偶然がきっかけですばらしい発明や発見をする能力」と書いてあります。もちろん、フォレスト・ウォルポールもこういう意味を込めてこの言葉を作りました。この「探し求めていたわけではないが」ということをもう少し詳しく説明すると、「ある目的があって、その研究をやる、あるいは仕事をする、最終的にはその目的を達成すればいいのだが、その途中で思わぬ展開があり、それとはまったく別の方向に進んでしまうことがある。そして、結局はその目的としていたことよりももっともっと大きな発明や発見をすることになった。」それがセレンディピティーによる発明、発見ということです。
セレンディピティーによる発見の具体的な例をあげます。ニュートンがりんごの木の実が落ちるのを見て、万有引力の発見をした。それがセレンディピティーによるものだと言われています。また、物理学者のレントゲンがいろいろな実験をしているうちに、写真の乾板に実験装置から出ているX線があたってしまい感光してしまったことで、偶然X線を発見したこと、それからワットが鉄瓶の蓋が煮えたぎったお湯でボコボコ浮いたりするのを見て、蒸気機関を発明したことなど、このようなことがみなセレンディピティーによる発見だといわれています。ただどんな偶然でも必ずしも偉大な発見になるとは限らず、ヘンリーという電磁誘導という現象を発見した物理学者がこのように言っています。「偉大な発見の種は、いつでも私たちのまわりを漂っている。しかし、それが根を下ろすのは、それを待ちかまえている心にだけである」。心というのはなかなか難しい意味かもしれませんが、フランスの生物学者のルイ・パスツールという人は「チャンスは待ち構えた知性の持ち主だけに好意を示す」と言っています。根を下ろすのはそれを待ち構えている心にだけというのは、そのような知性を持っている人だということです。それでは、知性を持っていればそれでいいのかというと、必ずしもそうではなく、電話を発明したベルという人は、このようなことを言っています。「時には踏み固められた小道を離れて、森の中に飛び込んではいかがでしょうか。」アメリカのベル研究所の前にベルの石碑が立っていて、言葉が刻み込まれているのだそうです。つまり、人の後をついていくだけではなくて、ときには、道のないところを行く、そういうところに入ってみてはいかがでしょうか。そして、道のないところを入っていくたびに、あなたはそれまでは決して見ることができなかったような、新しいことを見つけるでしょう、ということです。やはり、人の後をついていったのではだめだということです。皆さんには、まずは知性を磨こう、他人のやらないことに挑戦をしよう、つまり人の後をついていかない、そして深く考える、こういうことを覚えてもらいたいと思います。
6) 合成高分子
プラスチックというのは専門用語では高分子、場合によっては英語のポリマー、日本語では樹脂です。単純な構造単位が繰り返し結合してできた、分子量が極めて大きいものです。分子量というのは、例えば水、これは水素二つと酸素が結合してできたH 2Oですから、分子量は18です。このように私たちの身の回りにあるような化合物は二桁〜三桁くらいの分子量を持っているものが大部分です。それに比べて極端に分子量の大きいものがあります。高分子で、例えば、袋に使われているポリエチレンの分子量は数万〜数百万です。高分子にはいろいろなものがありますが、大きく分けて、天然高分子と合成高分子とがあります。
天然高分子というのは我々の衣食住に欠かせないものです、例えば、衣食の衣のほうでは、毛皮や、綿、絹などです。また、食で言えば、植物性、動物性のたんぱく質やでんぷんは、みな高分子です。そして、住むための木材、これも天然高分子です。そして、我々生物の体を作っている高分子には、例えば遺伝子のDNAや、たんぱく質があります。それに対して、人間が作った高分子を合成高分子といいます。最初につくられた合成高分子はフェノール樹脂というもので、今から100年前の1905年に作られました。この商標名はその人の名前を取って、べークライトと呼ばれています。今ではほとんど見かけませんが、私たちが皆さんと同じくらいの年頃には、電気の絶縁体としてよく使われていました。また、発泡スチロールで有名なポリスチレンは1929年に初めてドイツで量産化されました。そのほかに現在ではポリエチレン、アクリル樹脂、あるいは、ペットボトルのポリエチレンテレフタレート(PET)などがあります。
共通することは、石油が原料であること、全てが電気を通さないことです。このような人間が作った化合物の特徴は、なかなか分解しないために、環境汚染の原因のひとつだとされていますが、軽いこと、柔らかくて加工しやすいことなどいろいろな良い点があります。そして、電気の絶縁体であると同時に熱の絶縁体でもあります。ではなぜ、有機化合物が電気の絶縁体であるかという説明をします。電子は原子と原子を結合させるところに固定されています。原子と原子を結ぶ手を共有結合といいますが、共有結合のところに閉じ込められています。これが電気を通す金属と大きく違うところです。ポリエチレンとポリアセチレン、二つの分子構造を書いてみました。

ポリエチレンはふたつの炭素とふたつの水素と、つまり4本の手でそれぞれ結合しています。ところが、ポリアセチレンは炭素一つに、水素が一つしかありません。その代わり炭素間の結合が二重になっている。それで合計4本の手になります。そしてこの二重結合の二番目の結合というのは、少し特殊です。普通、電子は原子と原子が結びつく結合の周りで動けないようにくっついていますが、ポリアセチレンではこれとはちょっと違った種類の電子が一つの炭素に一つずつついているのです。これは少し変わっているので、π電子と呼ばれています。π電子は、電子の動き回れる軌道が隣の軌道と行き来が出来る程度にとても広がっています。そして、そのπ電子が電気を通す元になるのです。
7) 導電性高分子(プラスチック)の応用
それでは、電気を通すプラスチックはどのようないいことがあるのかという話をします。プラスチックは大変軽く金属と比べおよそ十分の一の重さです。また加工しやすく、バケツやコップなどいろいろな形に加工できます。電気を通すプラスチックも同じように加工しやすいという点ではプラスチックなのです。また、これは少し難しい話ですが、化学構造を変えることができます。例えば、先ほど例に示したポリアセチレンでは炭素骨格に水素が結合していましたが、水素の代わりに何か他の元素で置き換えることができます。あるいはもっと複雑な有機化合物の部分と置き換えることができます。その置き換えることにより様々な性質を付け加えることができるのです。ですから電気が通るだけではなく、その他に別な性質も加えることができます。導電性プラスチックの骨格が炭素ですので、資源がたくさんあります。さらに、先ほど見せたような、ポリアセチレンの一本の分子が電気を通すので、分子で配線をすることができます。分子で半導体、ダイオードを作ったり、トランジスタを作ったりすることができます。今使われているラジオ、テレビ、あるいは携帯電話をもっともっと小さくすることができます。アルミニウムや銅という金属は非常によく電気を通しますが、その電気の通しやすさは決まっています。しかし、導電性高分子はかなり大幅に変えることができます。
一方、いいところもあれば悪いところもあります。やはり有機物ですので、熱に弱く、燃えやすい、熱を伝えにくく、また強度が小さい点が挙げられます。ただ、強度が小さいということに関しては、実際には炭素と炭素の結合の強度は金属以上に強いのです。したがって、改良される余地はあるのです。また、電気を通すだけではなく、熱、光、圧力、ある種の薬品などによって導電性が変化します。例えば、光を当てると電気を通しやすくなります。導電性高分子で、熱のセンサー、光のセンサー、圧力のセンサーができます。また電圧を加えると光がでるようにできるので、非常に薄型のカラーの表示装置ができます。また、すぐ後で説明するドーピングをすると電気を通すようになり、これによって形を変えたり曲げたりすることができます。この応用で最近注目されているのは人工筋肉を作ろうという試みです。人工筋肉ができれば、材料は柔らかいプラスチックですので、人間や動物のように関節が自由にスムースに曲がり、人に当たっても怪我をしないロボットが誕生します。たとえば、病気の人を介護するような、ベッドから持ち上げたり、お風呂に入れたり、そのようなロボットができるのではないかと、研究をしている人もいます。
現在実用化している導電性高分子は、例えば電池やコンデンサ、発光ダイオードなど様々なものがあります。トランジスタや太陽電池もあります。それから将来は、分子そのものを半導体やいろいろな素子に使い、ひとつひとつの分子から出来ているトランジスタなどを作ると、腕時計くらいの大きさでスーパーコンピュータが出来るかもしれないなどと言われています。これはコンデンサで電気を一時的にためておく、非常に小さいものですので、後ほど実物を見て下さい。皆さんが持っている様な携帯電話の中身です。例えば、この黒い非常に小さいところがコンデンサです。10個くらい導電性高分子を使ったコンデンサが使われていますし、導電性高分子を使った小さなバッテリーもあります。
8) 導電性プラスチックの発見・開発とセレンディピティー
さて、ポリアセチレンを薄い膜にする合成方法を見つけ、その後、特殊な薬品を入れると電気がとても流れやすくなる、ということを見つけた、この二つが非常に重要な点です。膜を合成する方法は67年に見つけましたが、それからほぼ10年近い年月をかけて、「科学の花が咲いた」といえるのではないかと思います。(スライドを見せながら)これは私たちの研究室の典型的な反応装置です。この装置で反応させてポリアセチレンを作っていたのですが、もともとポリアセチレンは真っ黒い粉でした。粉末の状態ではいろいろな性質を測ろうとしても難しくてできなかったのです。これが面白いという人はたくさんいたのですが、花は開かず、茎が先細りになってしまっていました。
粉末しかないのなら、なぜ薄膜にするような研究をしなかったのかというと、それがコロンブスの卵のようなもので、なかなかそういう考え方をする人がいなかったのです。それではどうしてできたのかというと、実は失敗をしたからできてしまったのです。普通よりも1000倍も濃い触媒を作ってしまい、それで実験をしたのです。1000倍も濃いので、あっという間に重合し、粉末になる前に、膜になってしまったのです。この膜は、金属のアルミ箔に似ていますので、いかにもこれで電気が通るように思うかもしれませんが、これでは電気は通しません。そこで、ドーピングというものが必要となります。ドーピングすると半導体から金属になります。膜を作ってから10年近くかかったのですが、アメリカへ行き、アメリカの先生と共同で実験をしてみたところ、30分で100万倍くらい電気が通るようになっているのです。ここではじめて電気が通ることが分かったのです。
それでは、なぜ電気が通るのかということを説明します。まず、電気の通る仕組みですが、金属の場合には金属原子の1つについて、1つ、2つの自由電子があります。自由電子は金属の原子の間を自由に動きまわっています。このような自由電子があるから金属には電気が通るのです。さて、ポリアセチレンの場合にはどうでしょうか。ポリアセチレンの原子には、π電子(前述)があります。π電子が一列に並んでいると考えます。その両端に壁を作って、ある長さに限ってしまいます。するとぎゅうぎゅうの満員電車が急に止まっても、人が動けないように、この状態ではいくら電圧をかけても電気は流れません。ここで、電子受容体(英語でいうとacceptorといい、電子がたくさんあるところの電子をとってしまう性質の薬品)を加えるとどこか一つの電子をとって、自分自身はマイナスのイオンになります。Acceptorが電子をとると電子の空きができ、そこはプラスの電気を帯びます。するとその両隣の電子はいつでもその空きに転がりこむことができます。平らなところに置いてありますので、勝手に転がりこむことはできません。実際には熱で動いていますので、熱で動くという可能性はあります。しかし、よほど温度を高くしないと動けません。そこで、ここに電圧をかけます、電圧をかけると、ちょうどコップを傾けるのと同じようなことになり、そうするとプラスがだんだん動いていき、電気が通ることになるのです。
それと同じように電子供与体があります。電子を与えるということですので、これはドナー(Donor)と言います。ドナーは自分の持っている電子、つまり金属のように自由電子を出してしまうことがあります。電子をひとつ出して自分はプラスになります。これもやはり電子がアセチレンの上に乗っても、水平、つまり電圧がかかっていなければ動けませんが、これも電圧をかけますとコロコロコロッと転がります。つまり、電気が流れます。
結局、プラスチックが電気を通す条件というのは、π電子が一列に並んでいるような分子構造を作りさらに、AcceptorやDonorを与えドーピングをする必要があるということがわかったのです。
今お話してきましたように、私自身の研究目的は別にあったのですが、導電性ポリマー、導電性高分子は、偶然がきっかけで発見できたのです。これがセレンディピティーによる発見なのです。
そして、「みなさん、昨日から行っている自然観察の中で、知性を磨き、他人がやらないことに挑戦し、深く考える習慣を身につけて、いろいろなものをよく見、考えてみてください。」という塾生へのメッセージでこの講義は締めくくられました。
※多少難しい部分もあったかもしれませんが、白川先生は図なども交えて分かりやすくご説明くださいました。また、ここでは、割愛しているところもありますが、難しい言葉には、分かりやすい例なども随時ご提示くださいました。

