保育事例紹介~「科学する心」を育てる~

アゲハチョウを育てる/幼保連携型認定こども園 常磐会短期大学付属 いずみがおか幼稚園(大阪府)

生き物を飼育する子どもたちの姿を記録して、考察の観点をもって振り返ることはありますか?

今回は子どもたちが、幼虫と出合い大切に飼育し、アゲハチョウの変態の過程で不思議や疑問を解消しながら、興味を深めていく事例です。そして、「科学する心」に沿った観点で振り返ることで、子どもたちが感性や観察力や探究心を発揮し、言葉や絵で表現するなど、質の違う活動へと体験の広がりを読み取ることができます。

アゲハチョウになった/5歳児

アオムシが蜘蛛の巣につかまった!?

  1. 子どもたちは、5月上旬からチョウの幼虫の飼育を始めた。しばらくするとアオムシに変身した。子どもたちは、餌を探したり、世話をしたり観察したりしながら、益々興味を深めていった。
  2. 5月中旬、登園してきたAちゃんが、「先生、アオムシが蜘蛛の巣につかまった!!」と慌てて飼育ケースから助け出してきた。見るとサナギになっている。Aちゃんは、図鑑ではサナギになることは見ていたが、実際の糸やアオムシの変身ぶりに驚いた様子だ。
  3. 「ほら、ここで!」飼育ケースの蓋に糸だけが残っていた。「えっ、これサナギと違う?」と、今まで毎日変化を楽しみに飼育ケースをのぞき込み、図鑑と照らし合わせて成長を楽しみにしていたBちゃんが言う。Aちゃんも、瞬間的にサナギだと気が付いたようだ。ハッとしたと同時に、糸を外してしまったことに対して“しまった…”というような表情をした。
  4. 保育者は、「蜘蛛の巣に捕まったと思ってびっくりしたんやね」と、声をかけると、Aちゃんは、周りの友達の反応を気にしながら頷いた。改めてその場で一緒に図鑑を見ると、サナギになっていることが分かってみんなで喜び合う。通りかかった他のクラスの保育者が、「サナギって動くんやで」と言うと、手の平のサナギが、ピクピクと動いた。「ワァ!」と歓声が上がる。
  5. 子どもたちと保育者と話し合い、糸の代わりになる部屋を作ることになった。飼育ケースにサナギの部屋を付け、その中にサナギを乗せた。「うん、いいやん」周りにいた子どもたちも安心した。Aちゃんにも笑顔が戻った。

アゲハチョウの誕生

  1. 5月下旬、初めてのアゲハチョウが誕生した。そして、7月中旬までに13匹のチョウを孵し、飛び立たせてきた子どもたち。その間、アオムシを虫メガネで観察したり、絵を描いたりした。アゲハチョウになる数が増えてくると、「今、何匹目やったっけ?」と数に興味を示す子どもが出てきた。そこでアゲハチョウになるたびに描きたい子どもがチョウの絵を描き、数と合わせて掲示するようになった。
  2. アゲハチョウの絵を描くようになってCちゃんが、「このチョウチョ、羽根の黒い所多いなぁ」とつぶやいた。「ここ(図鑑)に載ってたで!」Dちゃんが図鑑を開く。チョウの模様は春型と夏型で違うことが図鑑に載っていた。

卵を産み付けるチョウに対する子どもたちの言葉

  1. 子どもたちは描いた絵を見ながら、実際に卵を産み付ける様子を見た時のことを思い出し、その時の様子や感じたことなどを言葉にしていた。
    1. Aちゃん:「あったかい気持ちになった」
    2. Bちゃん:「お母さんチョウチョ頑張れ!」
    3. Cちゃん:「お母さん大丈夫ですか?」
    4. Dちゃん:「お尻から出てきた」
    5. Eちゃん:「パタパタ!プッ!」
    6. Fちゃん:「大きくなってね」
    7. Gちゃん:「元気に産まれてね」
    8. Hちゃん:「お母さん大丈夫ですか」
    9. Iちゃん:「お母さん、この後、花の蜜吸えているかな?」
    10. Jちゃん:「卵を産んだら、お母さんチョウチョ死んじゃうから、悲しくなる」
    11. Kちゃん:「お母さん、チョウチョ、まだ生きていてほしい」
    12. Lちゃん:「卵からちゃんとチョウチョになれるかな?」
    13. Mちゃん:「卵から出てきた時、お母さんがいないからかわいそう」
    など、子どもたちは、友達と共感し合っていた。保育者も一人一人の思いに共感し、受け止めた。

羽化の瞬間を見る

  1. カレンダーにアゲハの変化を記入してきて、サナギから羽化までの期間を子どもたちと数えてみると、約10日くらいであることが分かってきた。今まで羽化直後にアゲハの誕生に気づくことはあったが、羽化の瞬間を子どもたちと観たことはなかった。
  2. 毎日飼育ケースを覗き込んで観察してきたIちゃんが、ある日サナギを観て「明日くらいにチョウチョになるなぁ…」とつぶやいた。「えっ、先生もそう思う!」次の日がサナギになって10日目だったからだ。でもIちゃんは、「サナギのしっぽ(先端)が黒くなってきてる」と、続けた。サナギの“色”の変化を感じていたのだ。羽根の模様が透けて見え、黒っぽくなっていた。今まで何匹も羽化させてきたからこそ分かる感覚なのだと感じた。なんとかその瞬間を子どもたちと一緒に観られるようにビデオで撮影することにした。この時のアゲハ誕生予想日は、丁度1学期の終業式の日だった。
  3. 式を終え、保育室に戻ってくると…生まれたばかりのアゲハが飼育ケースの下に落ちていた。
    子どもたちは「生まれた!」と歓声を上げたが、「まだ羽根がシワシワ!」「落ちてるから羽根乾かされへんのと違う?」「羽根乾かしてあげないと!このままやったら飛ばれへんやん!」と心配した。
    「摑まる所!」と言うAちゃんの声に、Bちゃんがこの日も持ってきてくれていたミカンの枝に留まらせることにした。
  4. その後、5歳児みんなで羽化の様子を映像で観た。
    1. みんな:「わぁ!」「びっくりした!」
    2. Cちゃん:「サナギの上の所は黄緑やで!」
    3. Dちゃん:「サナギの色がチョウチョみたい!シッポが黒や!」
    4. Eちゃん:「出てくる時、狭そう」
    5. Fちゃん:「狭い所出てくるの難しそう」
    6. Gちゃん:「出てきたとき細かったのに、すぐ羽が膨らんでる!」
    7. Hちゃん:「お外温かいなって思ってると思う」
    8. Iちゃん:「羽根で顔を隠してる!眩しいのかなぁ…」

振り返って

  • 本などで見る疑似体験や知識ではなく、実際に見て、触れて、生き物を大切に育てた経験は、驚いたり、感動したり、子どもたちが心を動かす場面の連続だった。「何だろう」「どうしてだろう」と不思議に思い、好奇心をもって“観察する”“考える”子どもたちの目、表情、思わず発する声は本当に真っすぐで、先入観の多い大人の自分が子どもたちから教えられることがたくさんあった。
  • 初めて実物のサナギを見たA児が、“幼虫が蜘蛛の巣につかまった!”と慌てて糸を外してから、紙で“家”を作りサナギをのせてホッとするまでのほんの一時の出来事の中でも、A児の心はめまぐるしく動き、A児なりの成長もたくさん感じた。
  • 子どもたちは心を動かす体験の中で様々なことに気づき、活動を広げていく。大人の経験から先にあれこれ考えを押しつけないこと、答えを言ってしまわないことで、自分たちで何とかしようとする力をもっている。でも、ただ見守るだけでは子どもたちが育つ機会やタイミングを逃してしまう。保育者は、子どもたちの心の動きをよく観て感じ取り、疑問や好奇心が次へとつながるような言葉の投げかけや、意図的な関わりをしていくことが大切だと感じた。
  • 目には見えない心の動きや成長を観とること、それは保育者の心もちが大きく影響すると思う。子どもたちと共に保育者自身も豊かな感性でいられるように成長していきたいと思う。
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