保育のヒント~「科学する心」を育てる~

深い学びにつながる対話/国立大学法人 福島大学附属幼稚園(福島県)

子どもたちが夢中になっている遊びは、どのような体験につながっていますか?

今回は、園の実態や子どもの実態を踏まえて保育を工夫している事例をご紹介します。

保育者は、事例から課題の解消をする子どもたちの姿や成長を捉えています。子どもの遊びの場面は違っていても、体験は積み重ねられていることや、子ども同士の対話はもちろんのこと、生き物との関わりを重ねることで学びを深めていることが分かります。

生き物との関わりが深まる学び/5歳児

斜体赤文字…科学する心が育まれる学び

事例1 ザリガニ釣り/6月中旬~7月中旬

園の実態・ザリガニ釣りの取り組みの経過
  • 震災後は、家庭で戸外遊びをさせることを禁忌する傾向になり、その結果、子どもが自然の生き物(ダンゴムシ、カタツムリ・その他昆虫など)と触れ合う機会がなかなか得られなかった。このような実態を踏まえて4年前から毎年ザリガニ釣りを計画的に行ってきた。
  • 今回は、「子どもが自分で考え、自分で発見すること」を目的に、釣り竿作りに挑戦したり、餌などの話し合いをしたりなど、準備を行う時間や場を保障し、工夫や探究活動につながる体験を大切にした。
  • 当日、子どもたちは、餌を釣り竿の糸に結び付けることに苦戦するなど、なかなか釣れない姿があったが、諦めずに釣っていた。餌や糸を垂らす場所を考えたり、釣れるまでの待つ時間を楽しむ工夫をしたりと試行錯誤をし、釣れると喜んで報告していた。
  • 保育者は、子どもたちと話し合って用意した様々な餌の設定の仕方や、釣れた餌が分かるように子どもが記入できる表示など、環境の工夫をした。また、どうやったら釣れるのかを考えられるように援助をした。
その後の姿
ザリガニの世話をする子どもたち
釣れた人数をホワイトボードに書く
  • 釣ってきたザリガニが保育室にいることで、水を替えたり餌をやったりして世話をする姿が見られ、子どもにとって身近な生き物になっていった。
  • ザリガニに注視したり、持って観察したりする姿が見られた。
  • プール遊びではザリガニのまねをして後ろに下がるようにして泳ぐ動きがあちこちで見られた。
  • 遊びの中で折り紙や空き箱を使ってザリガニを作って釣りをする姿が見られた。
  • ザリガニ釣りから2週間が経った頃、子どもの興味を捉えて、釣れた時の餌などザリガニの餌について話し合いの時間を設けた。話し合いに出た餌ごとに釣れた人数をホワイトボードに書いたことで、魚の骨や煮干し、リンゴ、飴などいろいろな餌で釣れたことや、魚、煮干し、スルメなどで多く釣れたことが分かった。
Aちゃんの姿、変容
  • 昨年のザリガニ釣りでは、Aちゃんはどこかでザリガニを釣り上げた声が聞こえるとすぐにそこに走って行き、次々と釣り場を変えて、他の子どもが釣ろうとしている所に釣り糸を垂らすなど自分本位な行動が目立ちみんなに疎まれていた。Aちゃんは、興味をもったものにはすぐに飛びつくが、飽きやすい傾向があったり、周囲の子どもの気持ちを考えずに自分の思いだけで行動したりしてしまうため、他の子どもたちから「Aちゃん、来ないで」と言われることもあった。
  • 今年のザリガニ釣りの餌の話し合いでは、Aちゃんは、「スルメだよ!ママがそう言ってたもの」と最初は知っている知識を口にするだけのことが多かった。次第に、友達がいろいろ考えて発言することに影響されて「マグロもいいけど、サーモンもいいよね」などと言い、自分の発言を友達が聞いてくれることに気づき始めたAちゃんは、友達の言葉も真剣に聞くようになっていった。そして、釣り竿を小さい組の子どもの分も作るなど積極的に取り組んでいた。
  • 当日に向けて餌について家庭でも話題にし、保護者に頼んで準備し持参した。ザリガニ釣りの当日は、お菓子でも試したが魚の骨で釣れた。その後の話し合いでは、魚の骨で釣れたことや、刺激的な匂いの餌が良いのではないかと考えをみんなに話していた。「やっぱり、魚だ!お菓子じゃなくて魚が好きなんだ!」と自分で納得したかのようにつぶやく姿が見られた。
  • 後日の話し合いに真剣に参加し、担任や友達の話を聞きながら考えていたAちゃんは「刺激的な匂い」という言葉をBちゃんと相談して発表した。実はBちゃんはライバル的な存在で、今まで対立していたやりとりが見られた。このザリガニ釣りをきっかけに一緒に考えること、相談することの楽しさを味わったようである。

事例2 クワガタも捕まえよう!餌何にする?/(ザリガニの餌について話し合った後)

  • 保育室で飼育しているクワガタを巡って、「自分の家に持って帰りたい」というCちゃんに対して、「みんなの物だからダメ!」とDちゃんが反対し、喧嘩が起きた。
  • Eちゃん:「また、餌を考えて捕まえればいいんじゃない?」と提案する。
  • Fちゃん:「前にやったバナナとお酒のやつだよね?」と言い、それを受けてEちゃんは「僕、明日バナナ持ってくる!」と言う。
  • Aちゃんは「僕はママのハイボール持ってくる!」と言う。
  • その後、子どもたちの話がどんどん進んでいった。ここでも、Aちゃんは真剣に、友達との話し合いに参加している。
  • Aちゃんは「甘い匂いがするから来るんだよね」「でも甘い匂いだけじゃないよ。お酒の匂いもするからだよ」「そうだよ、甘い匂いだけなら飴とかでも来るじゃん!」と言う。やはり子どもの中には「匂い」ということがキーワードになっているのだと思った。
  • 翌日から、毎日クヌギの木にクワガタが来ているかどうか、探すのが日課になっていった。「夜に来ているのかな?」「もっと朝早くじゃないとダメなのかな?」と考える日々が2、3日続いた。
  • 子どもたちは、とうとうカナブンを1匹捕まえて大喜びした。
バナナと酒、砂糖をジッパー袋に入れ、餌をつくる子どもたち
  • これをクヌギに塗れば、クワガタが獲れるんだよ!
  • バナナを潰して、お酒と砂糖を混ぜるんだよね?
作った餌を木の幹に塗る子どもの様子
  • こうやって、木に塗っておこう!
木の幹にいたカナブンを捕まえた様子
  • カナブン、捕まえた!

事例3 これも脱皮だよ!/7月中旬

  • ザリガニが脱皮した抜け殻を見つけたAちゃんは「先生、またザリガニ死んでる!」と言ってきた。担任が見に行くと、Gちゃんが「違うよ!これは脱皮だよ。ほら背中のところがこんなふうに空いて、皮を脱ぐんだよ。大きくなるから」と説明し始めた。それを聞いてAちゃんは、「ほんとだ、空っぽになってる!」と驚いた様子だった。
  • 翌日、GちゃんやFちゃんがセミの抜け殻をとっていると、Aちゃんもやってきて一緒に抜け殻を探し始めた。「これがセミになるの?」と聞くAちゃんに、Fちゃんが「そうだよ、ここの背中が割れてるでしょ、ここから出てきたんだよ」と説明し始めた。Gちゃんが「ほら、ザリガニの脱皮と同じだよ!」と説明すると、「あっ!」と何かに気づいた様子のAちゃん「でもさ、これセミの形してないじゃん!」とAちゃんが言うと、Fちゃんに「これは幼虫なんだよ。カブトムシと同じなんだよ」と言われて納得したAちゃんだった。
  • 数日後、Aちゃんはバッタを捕まえてきて飼育ケースに入れて世話をしていた。ある日、「先生、なんか白いバッタが増えてる!」とAちゃんが報告に来た。見るとバッタの抜け殻があった。Aちゃんはしばらく見つめていたが、「あれ?これ空っぽだ!もしかしたらこれも脱皮?」と驚いたように声をあげた。担任が「そうなんだ。脱皮なんだ…」と返すと、Aちゃん「そうだよ、バッタも脱皮するんだよ!」と新たな発見に嬉しそうだった。

考察

  • 子どもは自分で考えて推測し、「自分たちの考えは良い」ということが分かると、意欲的に活動する。ザリガニの餌について、大人の知識を鵜呑みにするのではなく、自分たちで考え、試した結果得た結論により、他のクワガタの餌に関する場面にも応用された。
  • ザリガニの餌について「刺激的な匂い」に関心をもっただけでなく、ライバル的な存在であった友達と考えを発表する姿につながった。また、友達からの影響を受けて自分から虫を飼育し、バッタの脱皮を実感する発見など、自分で考えることも、友達や保育者の助けを得て初めて形になっていく。自分の考えを表わすだけでなく、友達の意見も受け止め、どうしたら良いのかを考えていくからこそ、それぞれの考えが深まっていく。脱皮を手掛かりに、ザリガニ→セミ→バッタと一連のつながりが少し見えてきたようだ。
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