保育のヒント~「科学する心」を育てる~

「科学する心」のサイクル/学校法人七松学園 認定こども園 七松幼稚園(兵庫県)

みなさんの園では、日々の保育を振り返る時に、どのような工夫をされていますか?
今回は、子どもの体験や育ちを読み取る一つの工夫として、「園が考える『科学する心』のサイクル」に、事例の子どもの姿を照らし合わせて分析している事例をご紹介します。子どもの姿を、「科学する心」の視点をもって読み取ることで、保育者の援助の質の向上につなげるように工夫されていることが伝わってきます。

生き物との関わり/4歳児

園が考える「科学する心」のサイクル

図1 園が考える「科学する心」のサイクル

子どもたちは、園生活において安定した情緒・生理的基盤が保障された中で、様々な事象に触れ、不思議を感じて、ワクワクと好奇心を抱いている(図1 "A")。

不思議・ワクワクという感情から様々な活動に発展し、その中で多様なことに気付く(図1 "B")。

そして、思いがけない体験や失敗(図1 "C")につながる。

また疑問や新たな不思議(図1 "?")の感情から再チャレンジし(図1 "D")、新たな気付き(図1 "!")が生まれる(図1 "E")。

子どもの「感性」と「創造性」は、同時にこの行為の中で培われ、さらに保育者の援助により、より豊かなものになると考えられる。

そして、この様な体験を「A」から「E」、そして「A」へと繰り返すサイクルの中で、子どもの「科学する心」が育まれると考える。

事例

  • 紫斜体太文字…"!"(B・C・E)の項目
  • 赤太文字…"?"(A・D)の項目
場面1<卵があったかい/4月上旬>
ニワトリの卵に触る子どもたち
  • 自分の思いははっきりしているが、他者とのつながりはまだ幼く、保育者との安心を求めるKちゃん。臆病ながらも、自ら興味をもった遊びでは、やり遂げたい思いをもち始めていた。そして、「先生―!こっこちゃんが卵を産んだよ!!」(A)と、知らせに来る。
  • 3歳児の頃から、少しずつ触れるようにもなったニワトリ(こっこちゃん)。暖かい日も増え、この日は子どもたちの目の前で卵を産んだ。子どもたちは、卵を触るのは怖く感じている様子だったため、この日は保育者が取って見せる。
  • Kちゃんは、卵に触れると「ウワァ…あったかい」(B)と、言う。普段手にする卵と、感触が違うと思われる卵に、他の子どもたちの手はなかなか伸びなかった(C)。
場面2<みんなに見せたい/6月上旬>
飼育容器からカブトムシの幼虫を出す様子
  • カブトムシを自宅からもってきたSちゃん。「みんなが、中の幼虫見たいねんて」と、数日前より保育者に話していた。「みんなに見せるために必要な物を、調べてみてくれる?」と、保育者が提案する。
  • 翌日、Sちゃんは、「お母さんが、ちょっとだけだったら出しても大丈夫ってゆうてた!出す時に小さい虫、出てくるから気をつけて、手であんまり触らんようにしたらいいねんて!」と、はりきってみんなに教えていた。
  • みんなで、保育室にある新聞と、手で触らないようにするためのスプーンを持って、屋上へ移動した。(Sちゃんが、虫が出てきても大丈夫なように屋上を選んだ)。出したカブトムシの幼虫について、Sちゃんは、みんなに説明をした。「この大きいのがウンチやで」「幼虫はちょっとやったら触っても大丈夫」「噛むかもしれへん」などと、幼虫の特徴の説明をする姿があった。
  • 子どもたちは、カブトムシの幼虫の様子をじっと観て、興味を示していた(A)。
場面3<カブトムシの異変を心配する/6月下旬>
  • 毎日、幼虫の様子をじっくりと観ているSちゃん。「またウンチでいっぱいになってないかなぁ」(A)と言いながら、カブトムシの入ったケースを持ち、友達に見せて歩く。そして、「カブトムシ、外出たがってるかも知れへん、また出してもいいかな」と、保育者に聞く。カブトムシの掃除をした日が、楽しかったようだった。しかし、掃除した日から1週間と経っていなかった。
    「そんなにカブトムシさん外に出して大丈夫なの?」と保育者が心配そうに言うと、Sちゃんは、「う、う、うん…」と迷ったように答えた。
  • 何日もそのような姿が繰り返されていた。そして、カブトムシが土の中から出て、上がってくる日が続いた。カブトムシがよく見えると、子どもたちが喜ぶのとは反対に、Sちゃんだけは、「ウンチがいっぱいで苦しいんかな?」「土の中が苦しくておられへんのかも知れへん」と、心配した(B)。
  • 保育者も、「ほんまやなぁ、最近よく上がって来てるなぁ」とカブトムシの様子を見守っていた。そのような時、「土って幼稚園にある?」と、Sちゃんが聞いた。
  • そこで、園長先生に聞いてみることになった。Sちゃんは、すぐに友達に状況を伝え、カブトムシの掃除セットを持って、園庭に出た。偶然にも園長先生が、土を用意していた。ケースから出した幼虫を見て、「大きくなったなぁ」と驚く子どもたち。素早く土を入れ替え、幼虫をケースに戻した(B)。
  • その後も、カブトムシが土の中から上がってくる日が続いた。「なんでなんかなぁ」(C)と心配そうに考えるSちゃん。保育者は、クラスの子どもたちが興味をもっているが、度々持ち上げたり動かしたりしていることが気になっていた。「あんまり動かさない方がいいのかも知れないね」と、Sちゃんに伝える。
  • Sちゃんは、その日からカブトムシの“お守り隊”となった。友達がケースを動かすと「カブトムシ弱っちゃうから、動かしたらだめ!」などと強く、友達に伝えるようになった。そしてとうとう「先生、みんなが触れないところにカブトムシを置いて欲しい」(D)と言って来た。
場面4<カブトムシの成長/7月初旬>
カブトムシの幼虫が
皮を脱いでいる様子
  • 元気がないと思っていたカブトムシの幼虫が、皮を脱ぎ始めた。この瞬間は子どもたちが帰った後だったため、翌日脱皮の様子をビデオ撮影した。その時の映像をクラスで鑑賞することにした。
  • 脱皮の映像を見ると、歓声とも絶叫とも区別が付かないほどの声をあげる子どもたち。クラスの全員が脱皮する様子に釘付けであった(A)。「こんなんして動いてるで」とお尻をクネクネさせながら皮を脱ぐ動きを真似しながら見ている子ども(E)もいた。脱皮を終えて1日たったカブトムシと見比べ、「角がまっすぐになってる!と気付く(E)子どももいた。この日1日は、カブトムシを机の上に置き、よく見られるようにした。この頃には、ケースを持ち歩く子どもは1人もいなかった。
  • 掲示してある写真を指差し、「今、ここのところだね」と友達と言いながら、さらによく観たり、成長への期待を共有したりしていた。

考察

様々な生き物と関わることによって、生き物の温かさや変化・成長を見て学んだ子どもたちには、生き物を大切に思う気持ちが育くまれた。また、「科学する心」のサイクルを経験していく過程が読み取れた。この過程を保育者が、踏まえ理解することで子どもの気付きは深まる。また、その気付きを支えることで、保育の援助の質も向上すると考える。

  1. Kちゃんは、卵を発見して好奇心を抱き、触れてみることで、卵の温度を指先に感じ、また自分が知っている卵との感触の違いに気付く。今まで触ったことのない温かさに命を感じたのではないかと思われる。
  2. Sちゃんには、自分の知っていることを他者と共有したい思いが芽生えてきている。興味や好奇心の高まりから、実践しようとする心の動きには、安心できる環境や友達・信頼できる保育者の存在が土台にあると考える。
  3. Sちゃんは、カブトムシの異変を心配する思いが強くなり、自分なりにどうしたらいいか思慮する。みんなが触れない場所は、自分も見えなくなるが、カブトムシを元気にさせたい思いの方が強くなった。
  4. 生き物の成長を目の当たりにした子どもたち。カブトムシの成長を喜び、体で表現し楽しむ。これまで生き物と関わり、その生き物にとってどうすることがいいのかを自ら考える経験をしたことから、「科学する心」が育まれ、ケースを持ち歩かなくなるという主体的な行動になっていったと推測できる。
反省・課題

保育者は子どもの気付きを受け止め、気付きをより深める援助を適切に行なうことの大切さを実感したが、生き物に対する知識の乏しさなどから、子どもの発達を増長し体験を深めるような援助が不十分だったことが反省としてある。子どもの「科学する心」のサイクルの幅が広がり深まるような援助や環境の工夫ができるよう、保育者も課題を明確にもって取り組んでいきたい。

ページの先頭へ