保育のヒント~「科学する心」を育てる~

本物を作りたい/社会福祉法人龍美 陽だまりの丘保育園(東京都)

“本物”と出合った時のワクワク感ドキドキ感は、子どもたちの感性を揺さぶり、意欲を高めて、創造性を育むことに繋がっていきます。子どもたちの「本物の〇〇をしたい」という思いに応える時、どのようなことを大切にしていますか?東京都

今回は、ごっこ遊びを楽しんでいた子どもたちが、「より本物に近付けたい」「本物を作りたい」という思いをもち、試行錯誤しながら、異年齢の友達と一緒に目的に向かって取り組んでいく事例をご紹介いたします。

本物の流し素麺をやりたい/3~5歳児

9月下旬 流し素麺ごっこ開始~本物の魅力~
  1. ままごとコーナーでチェーンリングを素麺に見立てて、流し素麺ごっこをする子どもたち。すると、4歳児のAちゃんから、「本物の流し素麺がしてみたい」という提案があり、早速ペットボトルとガムテープを持ち出し、流し素麺台を作り始めた。それに賛同した3・4・5歳の子どもたちと一緒にペットボトルを半分に切り、どう繋げていくか相談を始める姿があった。
  2. 「どんどん繋げよう!」「端っこが危ないからガムテープを貼ったほうがいいよ」「端っこってどこ?」「ガムテープが切れないよ…」などと言い合いながら、3歳児、4歳児、5歳児の子どもたちが、ペットボトルを繋げた。
    1. 5歳児Bちゃん:「真っ直ぐじゃあ、流れないよ!こっちを高くしないと!」
    2. 3歳児Dちゃん:「楽しいねー!」
    3. 5歳児Eちゃん:「もっと斜めにしないと落ち葉が流れないよ!」
    4. 4歳児Fちゃん:「この位?あっ、流れたよ!」
  3. 完成した流し素麺台に水を流した。すると、水の重みでペットボトルが曲がってしまい、上手く流れなかった。ペットボトルが曲がらないように下から支える。子どもたちは、服が濡れてしまうことなどを構いもせずに、この日から毎日のように繰り返し、水を流し遊ぶことを楽しんだ。
10月上旬 イメージの共有~協働の芽生え~
  1. 曲がってしまうペットボトルを支えていた4歳児Hちゃんから、持つ人が濡れないように土台を作りたいという提案があった。早速、牛乳パックを使って作った。しかし、それぞれ異なるイメージで取り組み始めたので、Hちゃんは移動黒板に思い描いている設計図を書いた。設計図を書くことで、他の子どもたちに自分のイメージを伝え、共通の物を作ろうと考えた。
    1. 4歳児Aちゃん:「こんな感じに作れば、良いと思うんだよねー!」
    2. 4歳児Bちゃん:「外でこんな風に支えてたから、この高さに牛乳パックを立てて…」
    3. 4歳児Cちゃん:「でも横に倒れちゃうね…」
    4. 4歳児Aちゃん:「ビー玉を転がせば、ちゃんと水が流れるか分かるかな?」と言い転がしてみる。
    5. 4歳児Bちゃん:「やってみようよ!あっ、ちゃんと転がった!!」
    6. 5歳児Dちゃん:「外で、試してみよう!!」
  2. 外に出て試すことになる。
    1. 4歳児Eちゃん:「水も落ち葉も流れたよー!」
    2. 5歳児Bちゃん:「でも、本物の流し素麺は竹でやるんじゃないの?」
    3. 4歳児Fちゃん:「先生、竹で本物の流し素麺したいよ」
  3. この後、“ペットボトル流し素麺台”は、毎日ままごとコーナーや園庭で使われ、ボロボロになるまで遊びに使われた。こうして遊びに夢中になり“遊び尽くすこと”で、より本物の流し素麺をしてみたいという気持ちが高まっていった。
10月中旬 本物の道具~本物への道~
  1. ペットボトルの流し素麺の遊びの次に子どもたちが求めたのは、“本物の竹でやりたい!”ということだった。知り合いから竹を譲って頂き、鉈と金槌など、本物の素材と道具を揃え、竹の流し素麺台を作りが始まった。
    1. 3歳児Aちゃん:「竹硬いね!」「トンカチ重い…」「疲れた」
    2. 4歳児Bちゃん:「こうやって竹を割るんだ」
    3. 保育者:「力を入れないと割れないよ」
    4. 4歳児Bちゃん:「鉈は危なくて怖いから、力一杯できないよ…」
    5. 5歳児Cちゃん:「これ、面白い!楽しーい!」「だんだんコツが分かってきたよ!」
    6. 4歳児Dちゃん:「この前テレビで見たら、木の棒で斜めにしてたよ!」
    7. 4歳児Eちゃん:「この間の遠足で拾ってきた枝が使えるんじゃない?」
    8. 5歳児Fちゃん:「どうやって、くっ付けようか?」
    9. 4歳児Dちゃん:「テレビだとこんな感じだったかな?」
    10. 5歳児Gちゃん:「いいねー!」
  2. 3歳児の子どもたちは、その様子をじっと見守っている。
  3. その後、園庭に出て水が流れるか最終チェックをする。3歳児は、本物の流し素麺台に水を流す役割をし、4歳児は最後まで流れるかを確認している。5歳児は継ぎ目から水がこぼれないかをよく見ている。さらに、“本物”への思いは、園庭にいた2歳児にも広がって、楽しい場面を見るようになった。
11月上旬 本物の流し素麺~願いの実現~
  1. ついに念願の流し素麺をすることとなった。ワクワクが高まって、台に群がる子どもたち。固形の物の流れも試したいと考え、素麺以外にもプチトマトやキュウリ等、具材も流して楽しむことになった。
  2. 流し素麺が始まると、3歳児は一番素麺が見える上流の方に集まっていた。5歳児は取り損なう素麺があることにすぐに気付き下流で待ち構えた。4歳児は中腹で理想の流し素麺を体験していた。

振り返って

  • 自分たちの見立てを通して、「本当にしてみたい」という子どもたちの思いが、流し素麺台作りへと発展した。保育者は、すぐに試せるペットボトル等を環境に準備して、子どもたちの思いに応えた。材料を持ち出すと子どもたちは製作を始め、5歳児のリードにより、より“本物”に近い流し素麺ごっこが始まった。遊びの中でも気付きが年齢によって違い、それぞれの楽しみ方をしながら、異年齢の子ども同士が噛み合っていく様子が伺えた。
  • 子どもたちには、それぞれに本物の流し素麺のイメージがあったのだと推測する。Hちゃんは、自分の記憶を蘇らせ、イメージを膨らませながら設計図を描いた。Hちゃんの設計図は思いを実現するための手段として、子どもたちには分かりやすく、「イメージの共有」と「協同して作る」ことへと繋がった。そして理想通りの“持つ人が濡れない流れ”を作り出すことができた。
  • “本物の流し素麺”に近付けたい子どもたちの思いを受け止め、竹、鉈などの本物の道具に触れられる環境を整えたことで、今まで興味を示さなかった子どもたちも、“本物”に魅了され製作に参加し始めた。この中で3歳児は本物の道具に“触れ”、4歳児は本物の道具の“怖さ”も体験する。5歳児はその“怖さ”を知るも“巧みに安全に扱う”ことで本物に近付け、作り上げていく。こうして、“本物”を共有しながら、5歳児が、3・4歳児を援助する姿も見られ、目的達成へと向かうことができた。
  • ペットボトルで楽しむ遊びには参加していなかった子どもが、竹・鉈・金槌という本物の道具を使い始めると目を輝かせ、一緒に活動するようになった。また、竹を切る、水を流す、という視覚的に分かりやすい活動だったため、3歳児の多くも参加し始めた。そして、その先に“流し素麺”という同じ目的があったからこそ、異年齢でも一緒に助け合いながら取り組めたではないかと感じた。
  • このような過程の中で異年齢の子ども同士の関わりがお互いの力や考えを共有し、協同へと繋がり、助け合う心や思いやりなどが育まれていったと感じた。さらに、一緒に目的を達成したことから生まれる喜びを分かち合うかのように、“流し素麺”を無邪気に子どもも大人も楽しみ、一体感を得ることができた。
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