公益財団法人 ソニー教育財団    
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2002年度入選プロジェクト校 
 沖縄県八重山郡竹富町立竹富小中学校

島のくらしから科学的な思考力を育む
学校長
山盛 淳子
PTA会長
宇根 勝末
教頭
又吉  健
研究代表者
市原 教孝
児童数
小学校:13  中学校:9
学級数
5
電話
0980-85-2349
全文ファイルダウンロード[PDF:9.98MB]
I はじめに

 白砂の道、フクギと石垣に包まれた赤瓦の家。竹富島にはかつての沖縄がある。至る所、先人たちの知恵の結晶がある。私たちは、竹富島の風景や島の人々の日常生活から課題を見つけ、子どもたちの科学的な思考力を育みたいと考える。

写真1 沖縄の原風景を残す竹富島
II 本校の教育理念と竹富島総合学習
1 9カ年一貫教育、島民全体による教育

 本校には小中合わせて22名が在籍している。純朴で明るい子どもたちに、小中の職員が共同して「9年間」スケールで子どもを育成するプランを練っている。「小学校1・2年生には島を探検させ、いっぱい感動させよう」、「中学校1・2年生には便利さばかりが追求される現代生活に疑問を持たせよう」という具合に。

 島の人々も学校に協力的である。例えば「最近は三線を弾ける生徒がいなくなった」と言ったら、すぐに「三線教室」が開設され、2ヶ月後にはBEGINコンサートのステージに立った。また「太鼓を作りたい」と言えば、樹木の選定から彫り方等、終始熱心に教えてくれた。「西表島調査に行きたい」と言えば自分の船を出して連れて行ってくれた。島には「種子取祭」を始め、多くの祭事行事があり、子どもたちも芸能を奉納する。祭の数ヶ月前から熱心な練習が続く。また「テードゥンムニ(竹富方言)大会」というPTA行事がある。子どもたちはお年寄りから学んだ方言を使って意見発表をする。目的は「島の文化の保存・継承」であり、大会は今年で24回を数えた。

写真2 種子取祭で舞踊を奉納する生徒たち
2 研究の蓄積と竹富島総合学習の創設

 本校はここ十数年来、島の人々に支えられながら、「自然や文化とのふれあいを重視した郷土学習」を中心に教育活動を展開してきた。平成5年度の一例を挙げると、「消えた野鳥を求めて」という中学生の5年間の継続研究がある。内容はスズメの生態調査、野鳥の観察や聞き取り、島の家屋の構造や土地利用の変化の調査等、きわめて総合的である。結論として「多くの要因が重なり合った」としながらも「観光産業に依存することで」「耕地は荒れ」と指摘している。

 現在の「竹富島総合学習」もこうした流れを引き継いで創設された。目的は「島の自然、文化を通して、子どもの創造的な知性や科学的なものの見方、考え方を育成する」、「たくさんの人々と連携しながら探究活動を行い、子どもたちに健全でたくましい生活力や島の未来の主権者としての自覚を育てる」ことである。

 学習形態は、「うつぐみ集会」(統一テーマで全児童生徒が共同して行う活動=年間20時間程度)と、「テーマ別学習」(各学級で自由に計画し、体験活動の中で生じた課題についてとことん探究する活動=年間80時間程度)の二つのタイプに分けている。

3 うつぐみ集会(方言で「共同・連帯」の意)

(1)科学への好奇心を喚起する「科学集会」

 子どもに「科学の不思議さ・楽しさを味わわせる」ことを主たる目的として、年度のできるだけ早い時期に「島の動植物についてのクイズ」や「おもしろ科学実験室」などを企画・実施している。

写真3 竹富島の草花クイズに答える児童

(2)社会の変動を科学的にとらえる「平和集会」

 沖縄戦終結の日(6/23)に合わせ、「命の尊さや戦争の悲哀・理不尽さ」等を考えさせる。5つの学級が独自にテーマを設定し、調べたことをみんなに分かりやすく発表する態度を育てることも意図する。

(3)島の人々の生活の知恵を学ぶ「島の子集会」

 祭事行事が集中する9月以降、「島の歴史や文化にふれる」ことを目的とした学習活動を行う。本年度は「民具づくり」に挑戦する。

4 テーマ別学習
学級
主題
平12年度
平13年度
平14年度
平15年度
小1・2年 島の探検 シーサー探検 大豆と豆腐 草花・木の実 虫の不思議
小3・4年 島の産業 バケツ稲作り 養蚕・機織り ゴーヤ・水 堆肥・ゴミ
小5・6年 島の生活 カンカラ三線 町並・赤瓦家 ソテツ味噌 塩・醤油
中1・2年 島の特性 ゴミ問題考察 畑作体験 焼き物作り 混作・降り・
染め・
未来像
中3年 島おこし 萱葺き家作り 双胴船作り 稲作体験
〔実践例1〕小5・6年「島の生活を探る〜ソテツの不思議を調べよう〜」

(1)疑問

 「ソテツは、昔はあんなにあったのに、今じゃ見ないね。(老人A氏)」→調査に出発「ソテツを探せ」→ソテツの生えている場所、雌株・雄株の確認

(2)調査から分かった事

  • ソテツは見えなくなったのではなく存在していた。
  • ソテツは島の至る所で見ることができた。
  • 雄株と雌株では雄株の方が多い。
  • 屋敷内はあまりなく、茂みやお墓の側、道路沿いなどにあった。
  • 個体は茎の脇からもまた茎が出ていて個数を数えることが難しかった。

(3)課題と仮説

  • 昔と今では目にする数のちがいが、「見えなくなった」という表現になっているのかもしれない。
  • 木、自体ではなく、よく見かけたという状態が島の中にあったのではないか。

(4)再び調査・老人宅に伺う

  • 昔(戦後)食べ物がなくソテツを食べた。
  • ソテツ収穫解禁日があった。旧十五夜の翌日から
  • ソテツ料理は、ソテツみそ、そてつ粥、ソテツ菓子
  • ソテツの実の殻を笛を作って遊んだ
  • 毒があり、昔兵隊さんが1人亡くなった
  • 毒抜きのため7回も水にさらした。
  • 牧場の牛が中毒したことがある
  • 茎はぬるぬるしていた。触ってみた。

(5)結論

 かつてはどの家庭でもソテツのアク抜きをして食べていた。遊び道具にもしていた。このことから、かつてはソテツの収穫や調理をしている状況をたくさん目にしていたということが、「ソテツがたくさんあった」との認識につながっていて、今ではその様子が見られ なくなったことを「ソテツが見えなくなった」と表現したのではないかと考える。

(6)文献・インターネットによるソテツの調査

  • 有毒植物である→ソテツの実に含まれるサイカシンが体内に入ると酸化しホルムアルデヒドに変わり、めまい、おう吐、呼吸困難になる。
  • 薬草でもある→中風に効果的。

(7)成果と新たな挑戦

  • 有毒植物を食べ物に換える生活の知恵、地域の中で出会う本物のすばらしさ・不思議さ、地域の方の生活の知恵に子どもたちはビックリ
  • ソテツのおかゆ・おかし・みそをなんだか食べてみたい、作ってみたい→挑戦中
写真4 ソテツの分布を調査する児童たち
〔実践例2〕中3年「島おこし〜じいちゃん見てくれ、これが俺たちの米だ〜」

(1)テーマ設定の理由

 (UAさん作文)「昨年は、トマトとピーマンぐら いしか収穫できなくて、ピザを作ったけど、小麦粉と か主食になるものがないと思い、今年は米でいくかっ て事になった。それに竹富で『米』って聞いた事ない し、前代未聞でやりがいがありそうと思った。」

(2)おもな活動

  • 4月 お年寄りに「西表島への通耕体験、稲作の方 法」を聞く。稲作候補地の選定
  • 5月 揚水装置づくり。
  • 6月 水田づくり。島の人に「水牛に踏ませたら」 とのアドバイスで挑戦。
    写真5 観光業者の水牛を借りて水田づくり
  • 夏休み 西表調査・稲作開始。昔の島民の耕作地を 見学、種もみをいただく。「9月上旬には田植えしな いと間に合わん」と言われ、急ピッチで水田づくり。
  • 9月 田植え・手作りポンプづくり
  • 10〜11月 手入れ、生育調査、文献調査
  • 12月 収穫・脱穀・精米

(3)課題と出会う

稲作に成功はしたものの、一つの穂に約70粒、石 垣市の水田では150粒、明らかな「不作」。

(4)仮説

  • ○井戸水の「水質」(養分や塩分濃度)
  • ○保水性に乏しい「土質」
  • ○田植えの「時期の遅れ」→検証中
III 「科学が好きな子ども」の育成
1 「なんでかね」を強く意識させる

 「竹富島総合学習」の「テーマ別学習」は、まず思い切った体験活動を行う。そして体験、特に失敗体験の中から課題と出会わせる。例えば、焼き物なら割れた、稲作なら不作などである。ピンチがチャンスである。それを見逃さぬよう、今年はすべての子どもたちが「総合日誌」を持ち、教師はデジタルカメラを持った。毎時間の活動の中で生じる「なんでかね」を、子どもの「つぶやき」とともに丹念に記録した。

2 常に客観性を確保しながら探究活動を進めていく

 課題を見つけたら、じっくりと予想を立てさせ、調査、実験・観察方法を考えさせる。この際、私たちは感情を排して、事実だけに注目する態度を育てなければならない。これが難しい。

 過去に比較実験もしないで「よく育った」などと結論づける場合や、比較したいもの以外は他のすべての条件を同じにすることに注意が足りないこともあった。それでは「科学が好きな子」は育たない。

写真6 水田の土を比較する生徒
3 じっくりと相談しながら分析を進める

 今、稲作体験に奮闘している中3の子どもたちは、水田の水漏れに悩んでいる。水田に井戸水をはり、時々水牛を借りたりして、一生懸命に土を踏んでいる。それでも水漏れは止まらない。教師はついに窮して「ビニールシートを敷こうか」と提案した。しかし、子どもたちの大反対に遭って一部だけにとどめた。

 教師としての理想は「すべて調べて何も言わない」ことであろう。そして子どもなりのひらめきに対し、「なぜだろうか」、「本当だろうか」という問いをくり返し、子どもに熟考させ、それを乗り越えさせることであろう。

 しかし、教師にもどうすればいいか分からない場合がある。子どもたちの反対理由は「水の循環」や「環境」に対しての配慮だった。現在、検証中だが、結果が楽しみである。

4 探究成果を日常生活に応用させる

 もし、探究活動の成果を実生活に応用し、それが「自分たちの生活をより豊かにするもの」であることを実感させられたら、きっと「科学が好きで好きで仕方のない子」が育つに違いないと思う。応用しやすいように研究対象を「島のくらし」に定めている。

 昨年の畑作体験で、トマトが「水ストレスに弱い」ことを知り、畝を高くしてみた。「クラスト(雨で土が固まってしまうこと)による酸欠」を防ぐため、茅で土を覆い、雨を直接土に当てないようにしてみた。トマトとピーマンは大豊作だった。UMさんは「農業の難しさ、そして何より楽しさを知った」と記した。

IV 竹富島総合学習次年度計画
1 今年度の課題
  1. 教科、特に理科との関連をより明確にすること
  2. 自然認識をより高める指導
  3. 学習形態・日課表の改善(個性化・個別化)
  4. 評価方法の工夫・改善
     ※期待する子ども像に「竹富島独自の子ども」
2 次年度プラン(中学校の例)

(1)テーマ「島おこし〜これが未来の竹富島だ〜」

 竹富島には、つい最近まで「循環型社会」があった。高度な土地利用と共生の思想で、数百名の人口を支え続けてきた。現在も、町並みを保存し、変化を避けようと尽力している。しかし今、島は徐々に、老人にとっては急激に近代化し、環境破壊、文化の崩壊が進んでいる。私たちは「百年後も変わらない竹富島を創造する」という学習プランを練っている。

(2)取り組みたい素材

  • 粟と豆の混作(同時に違う植物を栽培する)
  • 堆肥(山羊、牛)と化学肥料
  • 野草(シマナ、ビーナ、ティノリャ、フクナナ)
  • 工芸作物(芭蕉、麻、月桃)
  • 天然の染料(藍、ふくぎ、相思樹、あかめがしわ、桑)と媒染剤(木灰、アルミニウム、鉄)
  • 「織り」のしくみ
  • 歩いて楽しむ島内観光
  • ゴミの分別、リサイクル

(3)学習方法の改善

  1. 環境問題に詳しいゲストティーチャーを数多く招き、講演会等で専門知識を高めたい。
  2. 毎時間、生徒が交代で「新聞記者」を務めるようにし、情報処理能力を高めさせたい。
  3. 地場産業の創造、ゴミ問題、環境保全と開発の問題、少子高齢化の問題の解決に、より地域と連携を密にし ながら学習を展開したい。
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