公益財団法人 ソニー教育財団    
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2001年度入選プロジェクト校 
 福井県福井市鷹巣中学校

地域の自然を愛し、生涯を通して科学する心を育てるために
学校長
西山 晴二
PTA会長
上田 彦哉
教頭
野路 伸次
研究代表者
南部 隆幸
児童数
77
学級数
3
電話
0776-86-1114
はじめに

 鷹巣中学校は,福井市の中心部から海岸部へ車で30分走った距離にあります。越前加賀国定公園内にあり学校の南部には安山岩の磯海岸,北部は砂浜(三里浜),東に緑豊かな国見岳が位置しています。平成9年1月には北部の三国町にロシアタンカーが流れ着き,周辺の海岸には多量の重油が流れ込みましたが、本校の生徒もボランティアとして油の回収に参加し,現在では以前のような美しい海が復活しました。
 幼稚園・小学校・中学校が同じ校舎内に併設した本校は,地域の学校として親しみを込めて「鷹巣の学校」と呼ばれています。幼稚園児9名,小学生88名,中学生77名が同じ校舎内で生活をともにし,縦につながる強いネットワークを持っています。中学入学時には5km離れた長橋小学校からも約3分の1の生徒が加わりますが,明朗素朴な性格からすぐにうち解け小学校から続く人間関係に新しい風を吹き込んでいます。

1.本校の教育の目標

 「鷹巣の学校」という呼ばれ方からわかるように本校は鷹巣地区唯一の学校であり、地域のよりどころとして大いに期待されています。また逆にいえば地域が学校の教育の重要な基盤ともいえます。鷹巣に生き、鷹巣に学び、さらに次代の担い手として新しい鷹巣を創り出していける生徒の育成は地域の願いです。そこで本校では「郷土創生」を教育の目標の一つに掲げています。
 また、小規模校である本校の願いは、教育活動の中で生徒全員が自分の可能性を見出してくれることです。そのために、これまでもボランティア・表現活動などさまざまな出会いの場を設定してきました。これらの出会いを通して、自己の生き方を考え自己の可能性に挑戦する生徒を育てたいと「自己創生」を目標のもう一つの柱にしています。

本校のめざす姿
2.理科におけるこれまでの取り組み

 理科においても「郷土創生」と「自己創生」をめざし、「地域の自然を愛し,生涯を通して科学する心を育てる理科教育をめざして」を目標に据えて研究を行ってきました。
 まず重視したのは、生徒たちの強いネットワークを授業の中に取り入れることでした。それまで、本校の生徒は少人数であることが災いし、周囲の人間よりも教師との1対1の結びつきを求めることが多く、日常生活で培われたネットワークが十分機能していませんでした。理科の授業を通して好ましい人間関係を作るということは地域社会を作ることに、また集団の中に自分の存在感を見つけることは「自己創生」につながります。
 班学習から出発した取り組みは豊かな自然・環境を土台に,学級を越えて小学校・幼稚園にまでつながる縦のネットワーク(小学校を招いての実験教室)、他の中学校につながる横のネットワーク(合同地層観察会)へと拡大してきました。

理科におけるネットワークの広がりのイメージ
3.来年度に向けての取り組み
(1)『認め合い,助け合う活動』を重視した班活動

 来年度も班活動を中心としそれぞれの生徒が主役となれるような理科授業を展開していきたいと考えています。
 これまで行ってきた班活動の工夫の1つが、リーダーを中心に学習をすすめる班別リーダー学習です。授業前日の放課後に日替わりの班リーダーが教師からの説明を受け、授業ではそのリーダーが中心となって班ごとに授業をすすめるというものです。班員への実験説明以外に,班員みんなのことを考えながら実験手順を役割分担してくるというのも大切な仕事になります。
 これまで、授業に積極的でなかった生徒も「班リーダーになったときは,ドキドキします。失敗しないように家でしっかり勉強してきました。」など意欲的に授業に取り組めるようになりました。また、お互いが新しい他者を発見し認め合う態度を身につける場にもなりました。

白衣を着たリーダを中心に活動する

 効果がたいへん大きい班別リーダー学習ですが、教師や生徒への放課後の負担も大きく、この方法をより広い単元に拡大するのは困難でした。そこで来年度は、班ごとに活動する時間とリーダーごとに活動する時間を授業の中で展開し、放課後を使わずにリーダー説明会が実施できたらと考えています。また、実験方法をコンピュータネットワークのサーバー上に置いておき、リーダーが空いている時間に自分の教室から自由に閲覧できるようにしていきたいです。理科室でも実験台からこのサーバー上のガイドブックを見て生徒たちが自分たちで予備実験を行える環境を整えたいと考えています。
 本校では、昨年のソニー教育資金で購入させていただいたデジタルカメラを総合的な学習の時間の記録用に使用しており、生徒もカメラを上手に使いこなすことができます。作成したレポートや自分たちの授業の様子をそれぞれのリーダーがデジタルカメラで撮影し、次年度の生徒が使用できるようにしていけば年度を越えたネットワークがさらに広がることと思います。

(2)学ぶ心を大切にした授業作り

 「鷹巣の海はとてもきれいですね。」鷹巣を訪れた人のほとんどはそう感想を述べます。ところが、鷹巣の海を美しいと思う生徒は意外と少ないようです。恵まれた環境の中で生活していることで自然の豊かさが当たり前になっているのでしょう。地域の自然を愛し,科学する心を育てるためには自分たちの身の回りの自然に感動し、疑問を感じ、探究できる生徒に育てなければならないと思います。

【生徒の疑問を大切にする】

 生徒たちは自然に対してたくさん疑問を持ち、授業を進める上でも多くの疑問を持ちます。子どもたちが抱いた疑問を大切にすることは、科学を好きな子どもたちを育てるためにはとても大切なことです。しかし、これらの疑問を授業の中ですべて取り上げていくことは難しく、これまでも取り上げずに次に進むということも少なくありませんでした。
 そこで、今年から授業に模造紙を持って行って生徒からの疑問をそこに記述することを始めました。疑問ボードと名づけたこの取り組みを始めて以来、質問・疑問の数が増え、内容もするどいものが増えてきました。他の学年の疑問を見てそれぞれの学年の学習内容に思いを馳せる生徒も少なくありません。また、「オランダのポルダーで種に比べ球根が育ちやすいのは土地に含まれる塩分の量と関係があるのでは?」など他の教科での疑問を科学的な視点から見たものも出てきています。
 今後、単元ごとに疑問ボードから課題を作り、それを探究する時間を設定したいと思っています。また、生徒それぞれが疑問に思っていること・調べてみたいことを表現する場を作りたいと考えています。このような取り組みを通して、3年間で疑問から課題そして探究へと研究を進める生徒が増えてくれることを期待します。

【自分で作るテーマノート】

 毎日の授業にもさらに能動的に取り組んでくれたらという思いから授業で使用するノートに工夫を始めました。生徒が自由な発想で使えるノートを作れないかと、色紙の表紙の中にA4サイズの40pの印刷のない紙が綴じられた『テーマノート』を作成しました。理科の時間には、実験レポートや自主的に学習したことなどを織り交ぜながら単元ごとにノート作っていきます。つまり、生徒一人一人が単元(テーマ)ごとに自分だけの一冊の本を作っていくわけです。
 今、このノートの可能性を広げていきたいと思っています。例えば授業が終わるごとに自分の作ったテーマノートを飾る掲示板を作成し、授業が終了後にこの掲示板にノートを飾って自分の教室にもどります。そうすることで、他学年の生徒もノートを見る機会が多くなり、学習が学年を超えて広がること、自分の活動が他に認められさらに深まりを見せることを期待してます。また、掲示されたテーマノートにお互いが感想を書きあって学習内容を深めたり、ノートを作る過程で自分の考えをどんどん深めていけるような工夫を行いたいと思っています。さらに、同じテーマノートの作製を通して他の教科とのクロスカリキュラムが実現できるのではないかと考えています。

ガーデニングのラティスを使った掲示板
(3) 縦につながるネットワークを生かす

【中学生による小学生のための実験室】

 これまで、ガスバーナーの使い方や石けん作りなど小学校の授業に、アシスタントとして中学生が参加する機会を作ってきました。小学生に教えるという体験を通してより真剣さが増し意欲的になる中学生、優しく教えてくれる中学生の言葉を緊張しながら聞く小学生、双方にとって貴重な時間になりました。
 また、昼休みを利用した科学ショー「昼休み実験室」を学期に1度行うようになって5年が経過しました。「実験室」に参加した小学生が今では理科好きの中学生に成長しています。中学校の大気圧や状態変化の授業で「昼休み験室」での経験を思い出す生徒たち、このような児童期の経験は科学を学ぶためにとても重要な役割を果たしていることを感じます。
 来年度は、中学校の理科室に招いての実験教室を進化させ、小学校の集会や授業に中学生が先生として参加する形で実験教室を実施したいと思います。内容も「飛行機はなぜ飛ぶの?」「虹ってどうやってできるの?」など小学生の疑問をもとにして生徒とともに考えていくつもりです。そこで見せる実験のおもしろさだけではなく実験を見せてくれる中学生への憧れが、小学生を科学を愛する中学生へと育ててくれるでしょう。

昼休み実験室の様子

【感性を揺さぶる環境の整備】

 昨年、潮だまりと深い海を再現した2つの水槽を用意しミニ水族館を作りました。製作の過程でも小学生を招き、生物の名前や体の様子を中学生が先生になって説明しました。この魚たちの毎日のエサやりは幼稚園児の仕事となり、”オコゼは体が大きいのにあんまり食べないね”とか”水槽に近寄るとギンポちゃんが顔をだすよ”と気づいたことをどんどん中学校の理科教師に報告してくれるようになりました。
 今後も小中双方がお互いの学習を共有できる場をつくりたいと考えます。第一に、小学校校舎にサイエンスコーナーを作り、中学生が授業で作製したプレパラートや研究物を小学生に分かりやすく展示したいと思います。小学生を意識しながら説明やレポートを書くことは中学生の意欲につながるでしょう。第ニに小学生の疑問に中学生が答えることができるようなシステムを作りたいと思います。すでに小学校では自分が感じた疑問を付箋紙に書きそれを貼り付ける「貯疑問箱」の製作を始めました。この質問に中学生が積極的に答えるようにしていきたいと考えています。
 また、校内から学校外に飛び出し、学校の周囲に広がる豊かな自然の中で子供たちが不思議・発見と出会える場を作っていきたいと考えています。その具体例として、潮だまりや海にすむ生物の観察ポイントの整備や学校の周囲の海岸林の観察コースの作製があげられます。すでに、4月から潮だまりと海に古タイヤを沈め選択理科の生徒たちと定期的に観察を始めました。あっという間に生えてなくなる海藻の成長や海に住む小動物の多様さに小学生の感性も大きく揺さぶられるでしょう。
 また、環境の整備と同時に人的な環境も整備したいとも思います。動植物の名前や観察方法の紹介などを幼稚園児・小学生の子どもたちに教えられる中学生をたくさん育てていこうと思います。このような経験をした生徒たちは、きっと鷹巣の自然を愛し、生涯を通して科学の目をもつ大人に成長できると信じています。

潮だまりにタイヤを沈めて漁礁を作る
おわりに

 来年度はこれまで研究を続けてきた生徒たちの結びつきを生かす工夫に加え、科学や自然と向き合うそれぞれの個に焦点を当てたいと考えています。
 幼・小学校では充実した環境を整え様々な現象と出会う機会を作ることで感性豊かな子どもたちを育み、中学校ではテーマノートを活用し生徒の疑問を大切にすることで自ら学ぼうとする心を育てていきたいと思います。そして、鷹巣の学校10ケ年を卒業するときには一人一人が自分の持った課題を深く追究していけるような生徒に成長してくれることを願っています。そして、この個人の成長と学びのネットワークが1つになったとき、本当に科学が好きな生徒が数多く育つでしょう。
 本校の取り組みは壮大な計画ではありませんが、子どもたちが置かれた豊かな環境と日々の小さな積み重ねが目標を実現に導いてくれると信じて研究を続けていこうと思います。

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