3章「科学する心を育てる」工夫(連携)

5.砂鉄で作れる? <地域や周辺の環境を取り入れて>
北陵幼稚園 (島根県簸川郡)
[5歳児]

 5歳児の子どもたちは、もっと難しいことに挑戦したい、もっと考えることを探したいという意欲がある。子どもと教師の思いがずれていると5歳児の保育は成立しないという考えのもとに実践した。

事例の流れ

砂鉄に興味を持つ ⇒ 砂鉄集め(園内・斐伊川・稲佐の浜) ⇒ 鉄に興味を持つ
 
子どもの活動と教師のかかわりと指導性
考察







築山に行き「斐伊川だ…」「深くなった…水流そう」と全身を使って遊ぶ。少しして、教師は子どもに聞こえるように、しかし独り言のように「この黒いのなんだろう?」とつぶやく。K子「この黒い砂は何?」「ちょっぴりしか見えんけど」Y児「これは、たまたま黒いんだわね」S児「そうそう 当たり前でしょ」そこで諦めないのがK子である。部屋から顕微鏡を出して覗く。「黒くて 固まりに見えるよ」「先生磁石貸して!」磁石を貸すと砂の中に磁石を入れる。「やっぱり・・これって砂鉄よ〜」「え〜砂鉄?」みんなが集まる。「何で砂の中に鉄があるの?」「……」
思い思いに磁石を持って砂の中から砂鉄を採取する。採れた砂鉄はプリンカップに入れて歩く。「先生、これだけ見つけたよ」「あんまり採れない」等 言葉が極端に少なくなる。
K子の砂鉄発見は、教師をどきりとさせた。今までの遊びを続けたい。一方砂鉄の遊びもおもしろい。教師は何ともいえないワクワク、ドキドキ感が高まってきた。子どもの感性に脱帽である。
この遊びに行き詰っていることが分かる。言葉が多い時は、たくさんの発見があり、試行錯誤の活動があるが、全くと言っていいほどその姿が見られなくなってきた。教師にも保育の構想が描けない。悶々とする日々を過ごす。








「斐伊川で遊ぼう」ということで出かける。数名はすぐに水を見つけて生き物探しをする。自分で磁石を持ってきているY児・N児・R児・T子・R子・S子は砂鉄採りを始める。
Y児「この黒いのは砂鉄の道だね」「斐伊川には砂鉄の道がいっぱいあるよ」T児「採れたらこの中に入れよう!」「みんなをびっくりさせよう」と話しながら砂鉄の採取をする。
水の中には砂鉄がないのか、斐伊川の水を持ち帰る。
幼稚園に帰り自分の集めた砂鉄を計量器で量ってみる。
R児たちの砂鉄グループは「850g採れた」と自慢する。
砂鉄を採らなかった子どもたちも「砂鉄を取りたい」と話す。
次の日もう一度斐伊川に出かけ、砂鉄を採る。
N児・R児は持ち帰った斐伊川の水を乾燥させて、砂鉄を採るという。斐伊川の水をトレイに入れて観察をする。水の中に磁石を入れて砂鉄を採取する。砂鉄と砂を分別して、純粋な砂鉄を取り出そうとする姿も伺えるようになる。
「砂鉄でない砂が磁石になんでくっつくの?不思議だな〜」
「磁石には鉄しかつかないのに・・」
「砂鉄がどこにあるかもっと調べようインターネットがいい!」得意なY児とT児が言う。早速、調べて鳥取県弓ヶ浜半島に多く見られることを知るが、そこまでは遠くていけないと分かる。Y児「大社の稲佐の浜でもいいんじゃない?」A児「行ってみよう」I児「海は繋がっているから砂鉄も繋がってるよ」
ただ斐伊川で遊べばいいのではなく、教師は何をどのように遊びを進めていくかを見るために、次の物を準備する。
<たも(網)・磁石・飼育ケース・プリンカップ・砂鉄を入れる大き目の入れ物・ナイロン袋大小>
黒く見える所が「砂鉄の道」である。
教師は子どもが話した言葉やつぶやきをみんなに知らせるようにした。Y児の「砂鉄の道」発見を大喜びで伝えて喜びを共にするようにしたことは効果があった。
子どもの「なぜ」「どうして」の気持ちのゆさぶりが何もないように見えるときは、子どもの遊びの内容を見ながら、戸外に出てみると新鮮な発見がある。そして、子どもの心はゆさぶられ、様々に考え、受け止め、伝えるという行動を起こすのである。子どもの心がゆさぶられるということは、子どもの心に添った支援を見つける役割を怠らないことであると思う。



稲佐の浜に出かける。子どもたちは、砂浜に下りた途端に。「砂鉄だ!この黒い砂は砂鉄だ!」と叫び、直ぐに砂鉄の採取をする。磁石が隠れて見えないほどキメの細かい砂鉄がくっつく。
「斐伊川の砂鉄と海の砂鉄は違う」「海の砂鉄がきれい」「ここにも砂鉄の道がある」と一心不乱に集める。
「先生 この砂鉄で鉄ができるでしょう」「いつ 鉄にする?」と次のめあてを話す子どもたちである。
持ち帰りみんなの砂鉄を集めて計って見ると8sになった。この集めた量から子どもたちは鉄作りに興味が移っていく。
子どもたちは連日、砂鉄を集めた。ここで、日々の「砂鉄で鉄を作る」という話をきちんと覚えていることが分かった。子どもの心の中にはきちんと納まっていたのだと思う。
浜の温度は相当なもので、「海の中の砂鉄も採ってみよう」とタイミングも考えて海に入っていく。素晴らしい。生活力とはそういうことである。




斐伊川上流にある、「鉄の未来科学館」の近くの鍛冶工房に電話を入れる。子どもたちが意気揚々といろいろと聞く。しかし、季節は冬がよいことや砂と砂鉄が混ざっていてはいけないことなどを知り落胆する。
子どもたちに「鍛冶屋さんがみんなの願いを叶えてくれるよ!」と報告すると、「やった!!」「先生 いいことしたね」と言い、喜んでいく準備をする。
子どもたちの思いを無駄にしないように情報収集をする。出雲市朝山町に鍛冶屋があることを知り、電話を入れる。「砂鉄を鉄には出来ないけども、ケラから鉄になっていく話をしてあげます」ということを聞き喜び勇んで子どもに報告する。









鉄を柔らかくするために燃やす「コークス」砂鉄から出来る「ケラ」など、見たり触れたりして説明を聞く。
「電気で風を起こすよ。昔はふいごで風を起こしていたよ。火が出るとその中に鉄を入れるよ。柔らかくなると打つよ。みんなに火バサミを作ってお土産にあげるからね」など仕事場を見ながら説明を聞く。
火バサミが出来るまでの2時間、子どもはビクともしないで、目を輝かせてじっと話を聞いている。子どもからは「知りたい」という強い願いがひしひしと伝わってくる。
幼稚園に帰り、子どもたちと話し合いを持つ。
F児:
「火が出るところがびっくりした。花火みたいだった」
T児:
「熱かった 汗がでた おじいさんが熱くてかわいそう」
O児:
「おじいさんの手がぼこぼこしていた。(筋肉の意味)」
N児:
「黒くて大きな機械が、鉄を打っていた。音が大きかった」
T子:
「鍛冶屋の神様が祭ってあったよ。火の神様だよ」
K児:
「つばめが巣をしていて赤ちゃんがピーピー言ってたね。つばめもおじいさんが好きかな?」
I児:
「おじいさんのシャツに穴がいっぱい開いていたよ。火が飛び散ったね」
Y児:
「鉄がクニャクニャしていて、ちょっと触ってみたいと思った」「ダメ 手がとけちゃうよ」
M児:
「油の中に鉄を入れたらてんぷらの匂いがした」
Tさんに丁寧に話をしていただく。特に砂鉄からできた「ケラ」の名前を直ぐに覚え「ケラはね」と知った言葉に自信を持って話す姿が見られた。
興味・関心のあることを子どもは、最後まできちんと話を聞くことができ、Tさんに「小学生より上手だね」と褒められるとますます良い態度になる。子どもを無理にそこに追い込むのではなく、子どもの心を無視せずに、教師はねらいをきちんと持ちつつ共同作業者としての教師であったから共感できたと考える。
子どもたちは、鍛冶屋のTさんが鉄を打つ時の筋肉の様子や、鍛冶屋の神様が祭ってあることやつばめの巣があったことまでよく観察していた。おじいさんのシャツが火の粉で穴が開いていたことなど、気がつかなかったことである。このことは、この活動の興味が高いことを意味するものと思う。



(その後)
夏まつりのお店作りでは、同じ興味を持った友達同士で「斐伊川での砂鉄取りの話」「砂鉄オロチゲーム」「おじさんが鉄を打つときの模型」「砂鉄あてっこクイズ」「稲佐の浜の弁天岩」など、テーマをもって活動した。
遊び込むということは、自分で考えを持ち、自分で方向性を見いだし、自分で満足いくように、5歳児なりの成果を見いだしていくために努力が出来ることだと思う。
  • 子どもたちに考える力を育てたい、子どもたちに考えたり、問題を持って生活することはとても楽しいことを知ってほしいと思うのである。難しいけれども、自分の力で、友だちと一緒に、本を探して、様々な人から情報収集をして、最後まで考えて答えが見つからない時はインターネットの力を借りることなど、子どもにだけ教師が求めるのではなく、教師自身も子どもと同じ目線で共に考えながら、共同作業をしながら、生活の楽しさを共有できるクラス作りをしたいと考えて実践を積み重ねてきた。
  • 5歳児はいろいろな経験を重ね、一段と自立した自分を感じていて、自信のある行動を見せるのである。それだけに、日々の保育が平坦であればあるほど意欲をなくしていくのである。「もっと考えたい」「もっと難しいことに挑戦したい」「もっと調べたい」という遊びなくして、5歳児の子どもたちの生活はないと思う。5歳児の子どもたちは急速に力をつけていくのである。その遊びが、教師の思い込みで押し付けられたりするとものすごい力で反発してくるのである。「自分たちで!」という考えが大きくなってくると思う。

● ポ イ ン ト ●
 この事例からは、自然の中で子どもたちが見つけた砂鉄を保育者が認めたことから、「どこならたくさん集められるか」「どのくらいたくさん集められるか」という子ども自ら考え、追究していこうという意欲や「科学する心」が育てられたことが伝わってきます。「砂鉄から鉄ができるのか?」という幼児なりの推測や疑問に、保育者は共同作業者として応え、「子どもたちの知りたいことを教えてくれるのは鍛冶屋(専門家)である」という情報を示します。そのため子どもたちは、集めた砂鉄からケラができることやケラから鉄ができることを魅力的に教えてくれる鍛冶屋さんに、積極的にかかわることができました。探究心が満足できるほどに、熱心に鍛冶屋さんの姿や言葉を見聞きし、多くの感動と知識を得たことが、その後の表現活動から分かります。
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