ソニー幼児教育支援プログラム > 「科学する心を育てる」実践事例集vol.2


C-4. 園外保育 Aちゃんの場合
みくに幼稚園(千葉県柏市)

昨年度の課題より
本園ではここ3年間の保育実践を経て、今年度の課題を次のように考えています。
幼児の内面にあるもの、今何を求めているのか、何故その様なことをするのか。より深く幼児の活動とその奥にあるものに気づき、子ども達に返したい。
幼児自身にとってみれば、活動範囲、生活空間の広がりに合わせた場の設定、個人の着実な活動スペースの確
保により、心身の調和的発達、基本的生活習慣の育成、身近な環境への興味関心、自主的協調性などの社会的
態度、創造性、豊かな情操等望ましい姿が見られるようにしたい。

具体的手だて 園外保育
 園内では経験できない直接体験のなかで、子どもたちが何を感じ取り、どのように自己のものとし、どのように表現していったのか。
 生き物や自然に対し、慈しみ大切に思う気持ちがどのように生まれ、教師がどのように援助するかを研究した。
 身近な施設の有効利用の方法を考え実際に施設利用した際の子どもの動き反応を確かめ、今後の利用方法の一助とした。障害を持った子どもでも科学の心がつかめる園外保育のあり方を考え、実施する。

園外保育Aちゃんの場合
 ダウン症で、ようやく排泄の失敗が少なくなったAちゃん。身体も小さく、階段の歩行もまだまだ一人ではおぼつかないこともあります。しかし、意欲と好奇心は誰にも負けません。そこで、園外保育のとき、最初はお父さんに一緒に行ってもらうことにしました。なるべく、友だちと一緒に見学すること。何か引率者だけでは対応できなくなったときは手伝ってもらうという条件で付き添いをお願いしました。Aちゃんの他の友だちとのかかわり合いとか、他児の様子をお父さんに見ていただくいい機会としたいとのねらいもありました。


「やわらかいね」
 はじめての園外保育は5月の上野動物園内の子ども動物園での小動物とのふれあいです。電車内では盛んに他の子ども達に話しかけ、一緒に楽しげに外の景色を眺めていました、駅の階段でも遅くなりながらも一人で昇り降りしていました。お父さんは少し離れたところで見守っています。動物園でモルモットを抱いたときのことです。動物園の係りの方から説明を受けているときから、いつも以上にそわそわとしています。顔も少しこわばり、モルモットを嫌がっている様子でした。みんなでそれぞれのひざに抱き上げることをし始めましたが、Aちゃんは顔を背け抱くことを拒否しています。係員や教師が何度か誘ってみましたが頑として受け付けません。お父さんに近づき、甘えるそぶりを見せ始めました。これはだめかなとおもった、そのときです。隣にいたBちゃんが一言、「Aちゃん、モルモットが怖いみたいだから、私が抱っこしているのを触らせてあげれば。」「Aちゃん、触ってごらん、かわいいよ。」その言葉に促されて、恐る恐るモルモットの背中にそっとタッチをしました。「できたね。」の言葉に少し余裕ができたのでしょう。こんどは前よりも長く触っています。何回も何回も繰り返した後、両手で包み込むようにして、にこっと笑顔で「やわらかい」
 うさぎも同様にしていましたが、「抱っこしてみようか」と誘ってみると。「やる」との言葉、他の子ども達に「Aちゃんがんばれ」と大歓声で応援されながらの挑戦です。モルモットとは違い、重いので教師が補助しながら抱くことができました。こんどは、「大きい」と驚きの声をあげていました。その後はヤギに圧し掛かられながらもえさをやったりと満足顔の一日でした。
 もし、これが親子だけの機会だったらどうだったでしょうか。たぶん、モルモットもいやがり、恐怖心だけが残ってしまったでしょう。この活動がうまくいったのはやはり、他の子どもたちの存在があったからでしょう。あの、「Aちゃん、モルモットが怖いみたいだから、私が抱っこしているのを触らせてあげれば。」の一言と他児の励ましがなければうまくいかなかったと思います。目から鱗と反省会 で話し合いました。そして、次回はAちゃんも付き添い なしで行ってみよう。そのためにもっと子どもの心を 知ろうと次への課題が検討されました。
ヤギにえさをあげて、
手のひらをなめられて

「ファインディング・ニモ」
 7月には東京の葛西水族園に電車を2回乗り継いで出かけました。Aちゃんも付き添いなしで参加です。サメやマグロが大きな水槽の中で泳ぎまわっている光景は子ども達にとっても新鮮なものです。ある水槽の前でAちゃんの動きが止まりました。水槽の右上部を指差して盛んに何かを訴えています。「Aちゃん、ニモっていっているよ。」「ほんとだ、ニモがいた。」「Aちゃんすごい。」そこには、イソギンチャクに隠れるようにクマノミがいたのです。鮮やかなオレンジと黒の身体にみんな引き付けられました。
 見学に際しては、まず子ども達に気づかせることを一番とします。そして、何故かをみんなで考えていきます。知ってる知らないではなく、「見つけた、気づいた、どうしてか」を大切にします。しかし、Aちゃんが探し出すとは予想もしていませんでした。先入観を反省させられました。Aちゃんは株を上げ嬉しそうな様子。いつまでもじっと水槽の中を見ています。他の子どもたちが次の水槽に行っても動こうとしません。一人の先生に一緒にいてもらい、我々は順路に従 って移動していきました。次の水槽から子どもたちの見方にも変化が現れました。それまでややもすると漫然と見ていた子どもも何か発見があるかもしれないという見方に変わったと思われるのです。Aちゃんがニモを見つけたように僕にも私にも何かが見つかるかもしれないというより、発見するという見方になったのです。Aちゃんから何かを教わったのでしょう。「あ、なにかいる。」「僕も見つけた。」「頭が四角いね。」「こぶが上についている。」「口が大きい」「いるよ。下のほうだよ。」「違うよ、横だよ。」「おなかの白いやつだよ。」「あれは。」「何で、あの魚をたべないんだ。」「あれは、さめ
だよ。」「じゃあ、何で食べないんだ。」子どもたちは互いに気づいたことを口々に表現しながら見方を進展させていきます。こんな光景が次から次へと見られました。
 しばらくしてからAちゃん満足そうにみんなに追いついてきました。ペンギンの水槽に来たときのことです。実はここで一つの仕掛けを準備してありました。水中のペンギンに園児たちの帽子を振ると、その動きにあわせてペンギンたちも首を振るのです。少し演技をつけてパフォーマンスをするとペンギンも動き出しました。子どもたちもわれ先に帽子を振り始めました。自分の動きにあわせてペンギンが反応するので、面白くてたまりません。
 ひとしきり楽しんだ後です。昼食時間となり、移動を始めたときです、Aちゃんがペンギンの動きを真似て歩き始めたのです。他の子どもたちも真似を始め昼食場 所まではペンギンの大移動のような光景が見られました。素直に、感動を表現できることに驚かされました。
ペンギンに芸を仕込んで

「油断は禁物」絶対あってはいけないこと。

 9月には上野の科学博物館たんけん館にいきました。園児たちも電車にも慣れ、博物館までは順調にやってきました。今回は1つの広いフロアーの中に様々な装置があり、それを自分で操作しながら仕組みや原理を遊びながら考えるものです。磁石、滑車、色の三原色、球の動き、空気などと魅力的なものがいっぱいありました。めいめい興味のある場所にそれぞれ移動して遊び始めました。教師も全体を見つつ、個別の場所に散らばりながら一緒に活動し始めました。Aちゃんも遊び始めましたが、今回の施設は小中学生が対象のためか、背の低いAちゃんには届かない物が多数ありました。しかし、教師が補助しながらひとしきり遊んだ後です、Aちゃんの姿が見あたらなくなってしまいました。全員で探したのですが、エスカレーターに乗って下の階に行ってしまっていたのです。取り返しのつかない事態になるところでした。

● ポ イ ン ト ●
 障害児とともに、園外保育にでかけることで、子どもたち同士の人間関係が深まっていくことがよくわかります。大人 との関係では乗り越えられないことも、子ども同士だからこそ乗り越えられるのですね。友達同士の相互的なかかわりが、 動物を見る目を深め、育んでいます。

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