「理科よりボールを蹴る方が実は得意なんです」と顔をくしゃくしゃにして笑う高野先生は、体育会系で情熱あふれる先生です。「科学が好きな子どもを育てる」ため、学校全体の協力体制を作るまでに費やした、多くの工夫や想いを語っていただきました。今回は、2006年度子ども科学教育プログラム最優秀校 泉谷中学校 高野展也先生をご紹介します。
まず、物事の本質を多面的に読みとる力を
課題を見つけて解決していこうとしたとき、疑問や問題にぶつかったとき、更に考えを深めようとするときに、“物事の見方”を大事にしています。子どもたちによく伝えているのは、4つの視点です。
まず1つ目は「大局的に見る」ということです。例えば地震がどうして起こるのかということを考えたときに、地震が起こった地点だけを見てもわかりません。地球規模で全体を考えなければ、原因を明らかにすることはできないでしょう。
2つ目は「方向性を考える」ことです。例えば、庭の草花を観察するときに、その日だけ観察して終わるのではなく、翌日以降、あるいは、異なる季節にも観察して、時間的な変化を考えることが大切です。また、平面的な分布などを観察するだけでなく、地上部分を観察したら、地中の様子も観察するなど、立体的な方向からも観察してみるなど、時間的な面での変化に加え、立体的な面での変化といった、異なった方向性を考えることが大事です。
3つ目は、「生活感覚での視点」です。例えば、夏と冬とでは、湿度は夏のほうが高いのに、洗濯物は早く乾いてしまいます。「湿度の高低」だけから考えると逆ですよね。その場合は生活感覚から来るズレという視点ですが、生活感覚から物事を見ることもとても大事です。
最後に4つ目ですが、「本質を捉える」ということです。例えば、10円玉が転がったり、自転車が走ったりしているとき、どうして10円玉や自転車は倒れないのかと考えます。倒れるということは、私たちはすぐに横に倒れることをイメージしてしまいますが、運動が止まれば、当然倒れやすい方向に倒れるので、止まった瞬間は横に倒れます。この場合は、横に倒れたということであって、実は、転がっているということは倒れ続けているということが本質なのです。
この4つの視点は、理科の授業のどの分野を教えるときにも、強調して実践しています。
[財団]
PISA2003の結果などから、読解力を身につけることの重要性が話題になっていますが、泉谷中学校では「物事の本質を読み取ることを大事にし、そのための視点を子どもたちに身につけてもらう」ということを通して、以前から地道に取り組んでこられたのですね。
「理由を付けて説明する」そのことを常に意識することで
「論理的な思考力」が育ってきた
理科だけでなく、どの教科においても、「理由を付けて説明する」ことを大切にしながら、普段の授業に取り組んできました。ときには、その「理由付け」があまり正しいものではないため、議論になる場合もあります。そんなときには、生徒たちに討論をさせて、「○○なので、××である」というように、日本語としてきちっと表現させることを心がけてきました。その過程を通して、生徒たち自身が感じる達成感を大切にしてきましたし、たとえ僅かでも成長した子どもたちを褒めることを心がけてきました。その結果として、「理由を付けて説明する」ということが、全体に浸透しつつあると感じています。
また、表現力については、まず、その子なりの方法で「自分を出す」、「自分を表現する」ということを大切にしました。人前で発表することが得意な子もいれば、発表は苦手でも文章に書くことが得意な子もいます。いろいろな表現方法があるから、いろんな発表の場を考えました。基本的には、その子に合った表現方法を認めるということでしょうね。
[財団]
「基礎・基本の定着」ということで、「読み」「書き」「そろばん」を身につけることに関心が集まっているように感じています。高野先生のお話を伺っていると、それらを身につけることは勿論大切ですが、もっと大切な「基礎・基本」があることがわかってきました。人が壁にぶつかったとき、その壁を乗り越えていくために欠くことのできない「問題解決能力」の基礎・基本、それが「物事の見方」、「論理的な思考力」、そして、「表現力」なんですね。
自由研究は物事の見方、論理的な思考力、そして、表現力を身につける最高の場
私たちの学校では、「夏休みの自由研究」にとても力を入れています。自分の考えを深め、真理を追究していく態度を身につけることはとても大切な事です。そのためには、普段の授業で学んだ基本的なことを踏まえた上で、自分の力で課題を見つけ、解決していくという経験をすることがとても重要だと思います。その具体的な取り組みが「自由研究」なんです。研究を進めていく中で、何か疑問点などにぶつかったときに、先ほどの4つの視点がとても重要であることに気がつきます。個人的な意見であって、事実ではないとか、生活感覚だけでなく、地球規模の大局的な視点から見たらどうか等と考えて行くことで、課題が焦点化できると思います。そのような経験が、4つの視点を大切にするという姿勢につながっていると思います。
わかる授業を実現するために
子どもたちが少しでも自由研究に取り組みやすくなるように、夏休み期間中の「理科室開放日」を増やしたり、限られた予算の中で様々な測定器を購入するなど、環境を整えてきました。問題解決能力を育む上で、自由研究への取り組みが重要だったわけですが、普段の授業についても「わかる授業」を目指して取り組んできました。
具体的には、「MA(Mistake Analysis)法」という考え方で取り組んできました。子どもたちの発言やレポートに間違いがあった場合、そこには必ず原因があります。その原因を先生方が徹底的に分析して、間違いの本当の原因を明確にすることを大切にしてきました。その結果を基に、授業を見直して改善してきました。このことは、子どもたちが「理由を付けて説明をする」という取り組みとも密接に関係しています。何かを説明するには、その基になる考えをきちんと理解していないと、難しいですから。
理科部会の取り組みから全校の取り組みへ
3年連続でソニー子ども科学教育プログラムに応募しました。1年目、2年目は理科部会だけの取り組みが多かったのですが、2年目に優秀プロジェクト校をいただいたときに、新聞にも紹介されたので、子どもたちや他の教科の先生方から反響がありました。そして、3年目には、他の教科の先生方も理科の先生たちの話を聞いてみようと、そういう風に少しずつ学校全体が変わっていったというところがあります。
また、科学が好きな子どもを育てるため、「身の回りに興味を持つ」「課題を見つけることができる」「自分の力で解決することができる」のほかに、4つ目として「それらを適切に表現することできる」という目標を加えました。そのとき、校内で「望ましい自己表現」という研究テーマに取り組んでいて、丁度連動させることができました。学校全体と理科部会の取り組みを同時に進行できる状況になったのです。子どもたちが自分の持っている力を適切に表現できるようにさせるという目標が一致しているので、他の教科の先生方にも大いにご協力をいただくことができました。
子どもたちの自信と誇りが自主性を生む
日々の授業がわかるという実感、自由研究や最優秀プロジェクト校受賞などを通して、子どもたちが自信を持つようになったこと、そして、学校に誇りを持てるようになったことで、学校全体が着実に変わってきました。先生方が見ていないところでも「泉谷中学校の生徒」であるということを意識しながら行動するようになったと感じています。その結果、地域からの信頼がとても良くなっていると感じています。
以前は、どちらかというと、子どもたちを規則で縛っていたところがありました。細かい話ですが、理科の授業で使う実験器具や材料について、数などの規制を厳しく行っていましたが、今では、必要な物を自由に使ってもらえるようになりました。子どもたちの自主性が着実に育まれてきたというのが実感です。
[財団]
教育再生会議の第2次報告で子どもたちの規範意識が取り上げられていました。高野先生のお話を伺って、普段の授業の改善や自由研究などに地道に取り組み、子どもたちが自信と誇りを持てるようにすることが、子どもたちの自主性を育むことをあらためて理解しました。
子どもたちに託す夢
子どもたちが自ら、自分なりの視点を見つけられるように、また見つけさせたいと思っています。科学教育でこれから考えなくてはいけないのは、持続可能な世界です。要するにエネルギー問題です。この泉谷中学校で得た、特に大局的な視点ですが、地球全体で見るような視点を、知識としてだけではなく、体で理解して、地球の将来のことを考えられるような人間が一人でも二人でも多く育ってほしいと願っています。アメリカのブッシュ大統領に文句を言えるような大人に育ってほしいですね(笑)。
[財団]
今回お話しいただいた、泉谷中学校の取り組みを実際にご覧いただく機会が、来る11月30日(金)にあります。2006年度に最優秀プロジェクト校に選ばれた学校2校において、その取り組みを実際に見ていただく場として、全国大会が開催されます。
大会当日は、公開授業を始め、各地から集まった入選校の先生方によるポスターセッションや、つくば言語技術教育研究所所長の三森ゆりか氏の記念講演などが行われます。皆様、ぜひご参加下さい。
詳細は下記のURLをご覧下さい。
http://www.sony-ef.or.jp/science/meeting/2007/izumiya_info.html



