技術の進歩は、豊かさや便利さと同時に、人間の考え方までも変化させています。人びとは、物質的豊かさをある程度満足させられると、心の豊かさを求めるようになりました。いったい、この世の中で人間が果たすべき役割とは何なのか、どういう人間であるべきなのかを、みなが真剣に考えはじめるようになったのです。しかし、一度できあがってしまった人間を、社会が変化したからといって、そう簡単に変えることはできません。新しい社会をゆだねられるのは、これから人間を形成していく幼児たちしかありません。私が幼児教育の重要性に思いいたったのも、この点にあります。
さて、現在の世の中をながめてみて、なにがいちばん欠けているかを考えてみると、私は、人間と人間との信頼感をあげざるをえません。人を信頼せよ、人に迷惑をかけるなという理屈は、小学生以上の人ならだれにもわかります。しかし、理屈がわかっていても実行できないのが、また人間です。生得のもの、自然に身についたものとなってはじめて、ほんとうに人を信頼することができるようになるのです。
すこしぐらい人より頭がよく、勉強ができても、人間を信頼できない子どもには、将来を期待できません。学校や幼稚園にはいるまえに、人間同士が信じあえるような基礎づくりをしておく必要があるのです。そこにこそ、真の幼児教育の目的があるのです。
――『幼稚園では遅すぎる』(1971年6月発行)より
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